雨の音がうるさくて



耳をふさぎたくなったんだけど・・・





彼女と彼と青空と
9*涙 「・・・・・・」 雨が降っている。 片手には病院から貰った傘一つ。 ザァ―――――― 傘に当たる雨のしずく。 その雨音がやけに大きく感じた。 少し視線を下げればの背中が見える。 猫は死んでしまった・・・。 怪我は酷くて助かるものじゃなかったと医者が言っていた。 「あはは・・・駄目だったみたいだね・・・」 そういって笑ったは自分を責めているかのようだった。 いつもバカみたいに笑って怒って言い合いして・・・。 そんなしか見たことのない俺は正直と惑ったし何をしたらいいのかも分からなかった。 「お前のせいじゃない」あの時そう言ってやればよかったんだよな。 俺がどうするべきか戸惑っているとは少し笑って「行こう」と言った。 「はっ?行くって・・・?」 情けない。 ここでやっと声が出たことも。 この続きの言葉を察してやれなかったことも・・・。 「この子・・・ちゃんと埋めてあげなきゃ  あたしの家はアパートだから庭がないから・・・  どこか人気のない所に埋めてあげなきゃ・・・悪いけど阿部・・・  もう少しだけ付き合ってくれる?」 「あっ・・・あぁ・・・分かった」 「ありがとう」 病院を出てからずっとは口を開かない。 いや・・・一言だけ喋ったか・・・。 人気のないところまで来て「ここにしようか」と言った。 その一言だけだ・・・。 二人で埋めてそれで今に至る。 はずっと墓の前にしゃがんでるし俺はずっと立って傘を持っている。 辺りは雨雲のせいか大分暗かった・・・。 「・・・そろそろ行くぞ・・・大分暗いし帰ったほうがいい。  それに少し乾いたけど雨の中傘なしでチャリこいでたんだから風邪引くぞ」 「うん・・・」 そういうと同時にさっとが立ち上がって大きく伸びをした。 そうして伸びが終わるとゆっくりとこっちを振り返って笑った。 「よしっ!帰ろっか!」 ザァ―――――――ッ 会話のない帰り道。 傘を片手に持ってもう片方で自転車を押して来た道を歩く。 学校からそう遠くない場所だったからすぐに学校の前に着いた。 すると歩いてると止まるの足。 数歩送れて自分も立ち止まる。 不審に思って振り返ってみると少し雨に濡れたはこっちを向いて笑っていた。 「ここでいいよ。うち学校まで自転車で5分だからさ。  すぐに帰れる」 「でもそれは自転車ならだろ?歩いたら倍はかかる」 「いいの。歩いときたいから」 「じゃぁ送る」 「大丈夫だって。近いし。ここまで付き合ってくれたのに  これ以上迷惑かけられない」 「いいんだよ。俺がしたいだけなんだから。  それに迷惑って俺もそう思ってねぇと成立しないと思うけど?  俺は全く迷惑なんて思ってない。以上。ほら。行くぞ。」 「でも・・・」 「・・・はぁ・・・。じゃぁちょっと来い」 自転車を止めてを傘の中に入れる。 きょとんとしているの腕を少し引っ張って野球部のグランドの方に連れて行く。 「えぇ!?ちょっ!阿部!グランドに行くの!?何で!?  つか開いてないんじゃ・・・」 「ここはいつも鍵かかってねぇだろ?  ちゃんと覚えとけよマネジもどき」 「もどき言うな」 「はいはい。まぁいーから来いって」 グランドに通じる金網のドアを開けて中に入る。 当然いつもの部員がいる賑やかなグランドはそこにはなく 代わりのように雨の夕方のしんと静まり返ったグランドが存在していた。 でも土の匂いが心地いいのは変わらない。 どんどんを引っ張ってベンチまでつれていて手を離す。 ずっしりと重たい鞄を地面に置いてベンチに座ると わけが分からないという顔をして隣にが座った。 「タオル使うか?俺まだ今日これ使ってねぇし」 「いやでも阿部が・・・」 「俺はもう一枚あるから大丈夫だって。  あんま気にすんなよ」 「じゃぁ・・・ども・・・」 沈黙。 そして雨の音。 この静かな空気は・・・不思議と嫌じゃなかった。 タオルで少し頭を拭いたりしてから肩からかける。 しばらくぼーっとしていたらのほうから話かけてきた。 「・・・・・・何でここにきたのさ?」 「・・・・・・・・あのさ」 「うん・・・?」 「笑うなよ」 「え?」 「そんな無理して笑うなよ  ばれてねぇとかって思ってんじゃねぇだろーな?」 「え?何のこと?阿部・・・意味わかんない・・・」 そう言って手で前髪を少しよけて笑う。 また また笑った。 そのことに少し腹が立ってとっさにその手を掴むと ビックリしてるのが空気で分かる。 「辛いくせに・・・無理して笑うな」 「っ!?」 しばらく目を泳がせた後諦めたのか目を伏せてうつむく。 「だって・・・他にどうしようもないじゃんか・・・。  あたしだって・・・どうしたらいいのかわかんないんだよ・・・」 「・・・・・・」 「だってあたしがもう少し早く見つけてあげてたら助かったかもしれないのに・・・。  あたし・・・あの猫殺しちゃったんだよ・・・」 「違う」 「違わないよ!」 「じゃぁもしそうだとしてお前はその猫殺してずっと笑ってんのかよ!!」 「っ!」 「いい加減にしろよ!それが正しいとでもおもってんのか!?  辛いのに無理して笑うことがいいことか!?あ?知違うだろ!!  悲しいくせに。辛いくせに・・・笑わねぇでいいんだよ!!」 「じゃぁどーしろっていうの!?あんたに何か考えでもあるっていうの!?」 「ある!」 「何よ!」 「泣けって!」 「・・・・・・」 ビックリして目を見開くこいつの顔は何だか新鮮だ。 こいつでもこんな顔すんだな なんてのんきに考えてる俺がいる。 「泣きたいくせに威勢なんかはってどーすんだよ。  そんなことしたらお前もあの猫も苦しいだけだろ。  胸ぐらい貸してやるよ。ただし今日だけだぞ」 「でも・・・」 「今日のお前"でも"多すぎ・・・。  心配するなって。どーせ暗くて泣き顔なんかみえねぇから。  それにそんな不細工な顔なんか見たくもない」 「プハッ・・・酷いなー本当ー・・・」 ポスンッ 「・・・・・・・・今日だけお借りします」 「おうっ」 雨の音に混じっての泣き声が聞こえる。 子供みたいに声を上げて泣くの背中はすげぇ小さくて震えてた。 時々頭を軽く叩きながらコイツが泣き止むまでグランドにいた。 雨は 降り続いている。 back  next