どうするわけでもないけど



ただ名前を呼んでいた





彼女と彼と青空と
34*疾走 「おーい、ちゃーん、大丈夫ー?」 「・・・・・」 「ちゃんてばー」 千代ちゃんが懸命に呼びかけてくれるも、アタシはそれに反応できないでいた。 何だか夢の中を歩いているかのような感覚で、どうもハッキリとしない。 気持ち悪くはないけど、気持ち良くもない、といった感じだろうか。 今現在のアタシは、そんな心地の中、机にほっぺたをくっつけている。 多分他の人から見れば、どこをみてるか分からないだろう。 まぁ、当たり前だ。 だってどこも見てないんだもん。 ため息をつくと同時に、机につけていない方のほっぺたに何かが乗った。 これは・・・ペットボトル? うお、ちょっと・・・これは見事なフィット具合だ! あまりにフィットしすぎて、ちょっと揺らしたぐらいじゃ落ちやしない。 ・・・って、アタシの馬鹿!! これじゃぁ自ら、ほっぺたの肉付きがいいですって言ってるようなもんじゃないか!! うわー!違う、違うよ! ちょーっと他の人よりプニプニなだけであって、別にそんな・・・。 特別に肉がついてんだなんてことないんだ! ・・・と思いたい!! ではなく!!! 「千代ちゃんやーい」 「あ、やっと喋った」 あぁ、うん、ごめんね、さっきから反応してなくて。 心の中で千代ちゃんに土下座をしつつも、アタシはペットボトルを退けて 顔を上げると口をもごもごさせる。 言いにくいなーこういうの・・・慣れてないんだよアタシは。 ・・・・・・こんな乙女キャラ! 「えと、ね・・・あのさ・・・」 「?」 「イキナリなんだけどさ・・・。  アタシ、阿部のこと、す、すき・・・みたいなんだ」 「うん、知ってるよ?」 「何でーーーーー!!?!?」 そ、そんな驚きもせずにあっさり言われるものだとは思ってなくて。 逆にこっちが驚いちゃったじゃないか!! 千代ちゃん・・・それがどーしたの?みたいな声で・・・そんな・・・。 あぁ、でも今までの皆のアドバイスやら発言やら思い出してみたら なんかこの気持ちに気づいてなかったのはアタシだけ・・・みたいな。 そんな空気なんだけど・・・・・・。 恥ずっ!!!!!!! 恥が致死量まで到達しちゃった感じだ、あ、ありえん!! 何も知らずに生きていくって言うのは素晴らしいね!今知ったよ! 身をもって!!!! アタシが赤くなって俯いていると、千代ちゃんがさっきのペットボトルを 差し出して「飲めば?」と言ってくれた。 中身はお茶だ。 まだ冷えていたお茶を飲んだアタシは、ようやく落ち着きを取り戻す。 というか、アタシに落ち着きというものがあるかどうかなんて不明だけど。 「それで、阿部君にはどう返事したの?」 「うっ・・・!や、そ、それがですねー・・・」 「まさか・・・まだ返事できてない、なーんて?」 「あ、あはは!千代ちゃん凄いなーエスパーなんじゃないの?」 「冗談言ってる場合じゃないよ、ちゃん  どーするの?これから」 心配そうな顔で覗き込まれて言葉につまった。 どうするといわれても・・・やっぱりちゃんと返事はするだろう。 だけどタイミングがつかめない。 一体いつ、どういう風に切り出せばいいんだか・・・。 「いいたい・・・ちゃんと言いたいけど・・・」 「一度タイミング逃したらそう簡単にはいかないもんねー」 「・・・・・・仰る通りです。  ああああああああ千代ちゃーん!!アタシどうしよう・・・」 今にも千代ちゃんに抱きつかんばかりの勢いだったその時 後ろから聞きなれた声が聞こえてきた。 「何をどうしたいんだよ、お前は」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、べ?」 「あ?それ以外誰がいるんだっつーの」 も、もしかして、今までの・・・聞こえて・・・? 「ぎゃーーーー!!!」 「うるせぇーー!!!」 「ぎゃふん!な、殴ることないじゃないか!!阿呆!タレ目!悪魔!」 「誰がだこのど阿呆!!!  たっく、人がせっかく心配してやってんのに・・・。  その態度は何だ!!!」 「し、んぱ・・・い?  えーっと、もしかして、さっきの会話、聞こえてなかった?」 「会話?」 神様!!!!! は一生あなたをお慕いして生きていきます!!! ありがたいことにさっきの会話が聞こえていなかったらしい阿部は アタシに、担任が呼んでいた、という事だけを告げると さっさと教室から出て行ってしまった。 「あ、危なかった・・・」 「言っちゃえばよかったのに」 「言えるわけないっすよ、あの場で」 「まぁ、そうだよね  それより先生に呼ばれてたって・・・」 「あぁ、後でいいよあんなの  どーせ罰の準備室の掃除が終わったことに関してだろうし」 「あ、終わったんだ」 「えぇ、死に物狂いで昨日終わらせました・・・よ」 そういうと再び机に突っ伏す。 千代ちゃんはそんなアタシの頭を撫でると、そっと、離れていった。 さすがだ・・・ちゃんとアタシが一人になりたいの分かってくれた。 好きだって意識はした。 でも返事はまだできていない。 なんだか中途半端すぎて泣きたくなってくる。 これ、いつまで続くんだろうか・・・やっぱ、こっちから言わないとね。 そう思うんだけど・・・・・・上手くいかないなぁ・・・。 そうだ、今日の部活のときに、明日の放課後にでも屋上に来てもらうことにしよう。 もぉそこでいいや、そこでちゃんと返事をしよう。 今日はちょっと・・・心の準備ができてないので・・・。 うん、分かってる、アタシへタレですよ。 放課後、明日の約束をとりつける。 そう心に決めて時計を見た。 あ、やば、担任のとこに行かなくちゃ・・・!! 「明日の放課後屋上に来て欲しいんだけど。  ・・・・・で、いいんだよね?  や、でも途中で事故とかにあったら・・・。  って校内で事故とか無いし。落ち着けアタシ、リラックス・・・。  だ、ダメだ・・・今自分でも分かるぐらい笑顔気持ち悪いって!」 リラックスすることを諦めて、アタシは荷物をカバンの中につめる。 担任の話はやっぱり罰の掃除のことだったわけで・・・。 ご苦労様と棒読みで言われ、これからは気をつけろという。 少しの注意を受けてすぐに開放された。 案外あっさりだったな・・・。 そんな事を考えながら荷物をつめ終え、いざ部活に行こうとした時だった。 教室に慌てた様子の千代ちゃんが入ってきたのだ。 「ど、どうしたの千代ちゃん、忘れ物?」 「ちゃん!あーもう探したよ!!!」 「ん?んー、ご、ごめん?」 「いいのいいの、気にしないで  それより急いだ方がいいよ」 「え、何で?遅くなったから監督怒ってる・・・?」 「そーじゃなくて・・・  今、阿部君が女の子に呼び出されたんだよ!!!」 「・・・・・・・・・・・え」 呼び出されるって、やっぱ喧嘩とかじゃないよね? 普通に考えて・・・・。 こ、こくはく? ズキン 胸が痛んだ。 イヤだ。 わがままだけど、告白される阿部なんかもう見たくない。 その子には悪いけど。 アタシだって阿部のことが好きなんだ。 「千代ちゃん、そこ、どこ?」 「部室裏」 「っ!!」 最低な女だと思う。 だけどアタシは気がついたら走り出していた。 心配そうな顔をした千代ちゃんの横を通り過ぎて、走った。 ただ部室裏だけを目指して。 心の準備とか。 そんなこと考えてる暇なんか無い。 行って告白の邪魔をしようと思ったわけでも 自分が代わりに告白しようと思ったわけでもない。 けど気がついたら走ってたんだよ。 そう、気がついたら、阿部のことを考えて走ってたんだよ。 ハッ!乙女すぎだろう、アタシ。 なんて軽く笑いながらも走る。 着いたら・・・・アタシはどうするつもりなんだか・・・。 答えが出るよりも早く、部室裏が見えてきた。 阿部の姿も、チラリと見える。 えーい、もう知るか!!!!どうにでもなれ!!! 「阿部っ!!!!」 アタシは力いっぱい叫んだ。 お願い、こっちを向いて。 back  next