スッキリした
ちょっとといわず、大分
彼女と彼と青空と
33*ピース
男子がアタシの机の周りで騒いでいる。
話題は勿論、この前の告白のことについてだ。
よそでやれといってやりたいが、それはそれで腹が立つ。
結局、陰で言われようが目の前で言われようが、そう変わらないらしい。
面白そうに話すのはいいことだけど話題が話題なだけにアタシは賛成できない。
というか、こっちに聞こえるように話してるから。
さすがのワタクシも血管が・・・いや、ダメだ。
そう考えて軽く頭を振った。
ほら、大人だから。
アタシ大人だから・・・ガキの言うことなんか華麗に流して
余裕の姿勢をとらなくちゃ・・。
そう思ってさっきから自分の注意をそらすために日直日誌を書き続けている。
カリカリ カリカリ・・・でも、シャーペンの音はそのまま
アタシのイライラに比例しているように感じてしまう。
それでもそんな自分に気づかないようにしながら
アタシはなるべく、平常心・ポーカーフェイスを装って書き続けた。
でも会話は耳に入ってくるもので・・・。
「やー、でもあのに告白だなんて
なんつー勇気出したんだよ、アイツ。
俺にはぜってー、無理だな」
パキンッ
シャーペンの芯が折れる。
それと同時に平常心なんてものが頭の中からきれいさっぱり姿を消した。
まるでそんなもの最初から存在していなかったかのようだ。
素晴らしい!素晴らしい!!素晴らしい!!!マーベラス!!!!
平常心?そんなもの、今この場ではなんの役にもたたないことが
よーく分かった・・・。
アタシはフラフラと立ち上がり相手のほうをキッと睨み付けて
大きく息を吸い込むと力の限り叫んだ。
「うるさいぞお前ら――――ァ!!!!悪かったな!!無理で!!
どうせかわいげのない女だ、アタシはっっっ!!!!」
「おっ!」
「が怒った!!」
「ヤベー、鬼だ、鬼!!!鬼女ー!」
「あははは!!行くぞ!!」
一斉に走り出した男子を反射的に追いかけてしまう。
つか誰だ!!!!今鬼女とかいったやつは!!!
あー!!もう!!男子ってなんでこう・・・・!!
いやいや、考えたって仕方が無い。
とにかく逃げる男子を捕まえなくちゃいけないんだ。
アタシは全速力で廊下に飛び出した男子達を追いかけた。
距離は・・・縮まらない・・・・。
「よく追っかけんなぁ・・・
つか、意外と大丈夫そうじゃねぇ?」
「うん、そーだね、わりと」
「・・・・・・」
「?どーした、阿部」
「何でもねーよ」
「出て来い卑怯者ーーーー!!!」
そういって出てくるならただのバカだ、ということは
いくらアタシでも分かる。
それでも叫ばずにはいられない。
結局全員に逃げられたアタシは、校内を彷徨い歩くことになった。
普通のやつらな大体捕まえれる自信はあった。
でもね、あいつら全員陸上部だったんだよ!!!
なんのイジメですかと、走ってる最中何度泣きそうになったことか。
多分こうなることが分かってたから、あいつらは余裕な表情で
アタシをからかうことができたんだろう・・・。
「あー、もう最っ、悪!!」
一人空しく悪態をついてみるも当然返答はなく・・・。
声は寂しく廊下に響くばかりだった。
ふと気づけば、アタシがいる場所は社会化準備室の前だった。
何か用があったってわけじゃないけど・・・。
アタシはその部屋に足を踏み入れる。
相変わらず片付かない部屋だ・・・と思う。
まぁ、それはアタシがちゃんと掃除してないからだけど。
ここで・・・告白されたんだよなぁ・・・。
何だかずいぶん昔のことのように感じられる。
そんなはずないのにな・・・。
早くも積もり始めた棚のホコリを息で飛ばして、それを眺める。
阿部は・・・アタシのどこがいいんだろう。
考えたって当然分かるはずもない。
けど、考えずにはいられない。
いいところなんか、みつからないのに
ああ、ダメだダメだ・・・どうやら頭が疲れているらしい。
だんだんネガティブになってきている自分に気がついて
頭をふって考えを消そうとした。
そんなことしたって、簡単には消えてくれないけど。
ネガティブは性に合わないんだよ。
心の中で呟いて頭を更にふってみた。
お、ちょっと凄いぞアタシ。
今なら頭ふりのギネス記録出るかもしれない!!
って、そんな記録があるかどうかは謎なんだけど・・・!!
「キ・モ・イ!!!!」
「あでっ!?」
後ろから何かに叩かれた事によってあたしの頭ふりはとまった。
急停止した頭はそのまま取れてしまうんじゃないかというぐらい
反動がついて、アタシの口からは、思わず「ぐえっ」っという
乙女には程遠い声が出た。
なんてこった・・・これじゃぁアヒルだ。
「なに一人で頭ふってんだよ!!
しかもスゲースピードで!!お前頭大丈夫か!?」
「あ、阿部さん・・・こんにちは。
アタシの頭ですか?驚くほど正常ですよ。
本当本当、大丈ー夫」
「お前の大丈夫って言葉は、
“今無事故だから安心して乗っていいよ”
っていう免許とりたての人間の言葉ぐらい信用ない」
「そこまで信用ないのか!?
なら大丈夫とか聞くなよ!!!!」
「っるせぇ!!!つかこんなとこで何やってたんだ!?」
うっ、と言葉に詰まる。
“気がついたらこの部屋に入ってましたー”だなんて
とてもじゃないが言えなかった。
だって、どーせまた馬鹿にされる・・・!
というかアタシは、何であんたがここにいるんだと言ってやりたいね!!
アンタさっきまで教室にいたじゃん!!!
アタシが言葉を選んでいると、それをどうとったのか。
阿部はきまりが悪そうに頭をかいた。
あんたのせいじゃない。
そういってやりたかったけど、その言葉すら出てこない。
情けないな、と思う。
「あー、その・・・悪かったな、色々。
俺があんな事言ったから、からかわれたりして・・・」
「謝んないでよ!!!!!」
自分でも驚くほど大きな声が出た。
アタシが叫んだことで目を丸くした阿部をみた後
すぐに俯いて目を合わせないようにする。
謝ってほしくなかった。
あんな事だなんていってほしくなかった。
阿部は何も悪いことなんかしいていない。
なのになんで謝るの?
告白されたのが悪いことだった?
頭の中で色々な感情がごちゃごちゃしている。
感情の整理ができなくて俯いたままで立っていると、ふいに阿部が近づいてきた。
そうして軽く頭に手が置かれる。
阿部は独り言のように小さな声で言った。
「何が『大丈夫そう』だよ。
大丈夫なわけ・・・・・・ねぇよな」
涙があふれそうになった。
お見通しなんだ・・・阿部には・・・。
アタシが今まで辛かったことも、今さっき叫んだその思いも・・・。
全部分かってくれてたんだ。
必死に涙をこらえて、アタシは頭の上にある優しい手を感じる。
自然と安心感があふれてきてやっぱりまた泣きそうになった。
でも泣くもんか。
こいつの前では、たくさん泣いてきた。
これ以上、泣き虫になんかなりたくなかった。
あぁ
なんでこいつの前だとこんな
気が抜けちゃうんだろう
「気づいてて、気づかないふりしてるだけだと思うけど?」
「人の気持ちなんかシンプルなもんだ
何悩んでんのかしらないけど、考えすぎるな
自分の中の、最もシンプルな気持ちを見てみろ」
『そーだなぁ・・・今までのことを思い返してみたら?
どうして自分がそんな行動をしたのか
どうして自分がそんな気持ちになったのか
自然と分かるはずだよ?』
そっか
そうなんだ
安心感も
映画のときのショックも
さっきの謝ってほしくなかったのも
全部思いは同じだったんだ。
ただ、アタシが気づいてなかった・・・いや
気づかないふりしてただけだったんだ。
パズルのピースが当てはまったようにすっきりとした気持ちになる。
気が緩んで、一筋だけ涙が流れたけどそれ以上は流さなかった。
俯いて動かないアタシを急かすわけでもなく
阿部はただアタシが動くのを待ってくれていた。
その好意に甘えて、アタシはしばらくその場を動くことはなかった。
アタシは阿部のことが好きなんだ。
back ▲ next
|