胸を張って大声で
空に叫ぶことができますか?
彼女と彼と青空と
35*想う
「阿部っ!!!!」
阿部が
こっちを向くようにと
大声でその名前を呼んだ
アタシの願いが届いたのか、声が聞こえたらしい阿部は、
こっちを振り向くと驚いたような顔をした。
それをひとまず無視して、アタシは走る。
既に息は荒くなっていたけど、そんな事も無視だ無視!!
転がり込むような勢いで、アタシは阿部の目の前に出た。
まぁ、本当に転がり込むわけにもいかないからちゃんとブレーキはかけたんだけど。
肩で息をしながら、なんとか顔を上げたアタシは阿部を見ると言う。
「阿部!!!ま、まだ!?」
「は?なにが?」
「・・・・な、なにがって」
「つかお前急ぎすぎ、大丈夫か?
あー、汗かいて、馬鹿だな・・・何をそんなに急いでたんだか。
あ、あれか。俺呼び出したの?」
「呼び出した・・・アタシ、が、っ?
って、な、なんの・・・っ!!!」
そこで、嫌な予感がアタシを襲った。
ちょっと待てアタシ。
落ち着くんだ。
ちゃんと考えてみろ。
アタシはここに来てから阿部以外の誰かを見たか?
答えは、NOだ。
ギギギという音が出そうな動きで後ろを振り向くも、アタシの後ろには誰も居ない。
いや、後ろどころか!ここには阿部とアタシ意外誰もいないんだ。
「は・・・はははっ・・・はめられたぁ・・・」
「っ!お、おい!!」
ペタンと地面に力なく座ったアタシに驚いたらしい阿部が声をかけてきた。
あぁ、でもごめん、今はちょっと返事ができない。
口からは乾いた笑いしか出てこなかった。
なんだ・・・。
阿部は女子に呼び出されたわけでも、告白されていたわけでもなかったんだ。
アタシは、ここに誘導されただけだったんだ。
よ、よかった・・・・・・。
はめられたとかこの際考えないで・・・本当によかったと思う。
ヤバイ、安心したら力抜けた・・・!!
「、お前さっきからおかしいぞ」
「大丈夫なのですよーワタシおかしくないのですよー。
ちょと頭のネジがとんじゃっただけなのですよー」
「いや、それ十分おかしいから」
「うっさいよ。それより、阿部はどうしてここにいんの?」
阿部の力を借りながら立ち上がったアタシは、スカートについた汚れを払う。
必死に頭を動かそうとしている、アタシの時間稼ぎだ。
「俺は花井と水谷に、ここで待ってるように言われたんだよ。
絶対に人が来るから、って。
で、来たのがお前。お前は?」
「アタシは千代ちゃんにここに来るように・・・い、言われたんだよ」
「何そのどもり・・・。
ま、いいか・・・で、話は?」
「や、アタシも千代ちゃんに来るように言われただけだから・・・。
話っていわれてもなぁ・・・」
嘘をついた。
「んだよ。じゃぁあいつらの勝手な行動か?
たっく・・・だったら部活いくぞ、ほら、マネジ」
「う、うん・・・」
阿部の後について歩き出そうとした。
でも、一歩踏み出したところで思いとどまる。
いいの?進んでも・・・体だけ進んでもいいの?
気持ちは・・・このままでもいいの?
せっかく千代ちゃんたちが、うじうじうるさいアタシのために
こんな機会を作ってくれたのに・・・。
その気持ちを、この機会を、知らない振りしていいのかな。
いいや、いいわけない。
いいわけないじゃないか、何を考えてるんだアタシは。
このままだと、多分、ずっと逃げてばっかりだ。
阿部に甘えて、ずっとこのまま何も変わりはしないと思う。
他の女の子に告白される阿部を見るのも嫌だけど
何も変わらないのはもっと嫌だな・・・。
そう、一人で、苦笑した。
ぎゅっと手を握る。
大丈夫、こんなにも、支えてくれる人がいる、応援してくれる人がいる。
アタシにまわりは、こんなにもあたたかいじゃないか。
勇気を出せ、アタシ。
怖いのは、自分だけじゃないんだ。
「阿部」
気がついたら名前を呼んでいた。
自分でも驚くほどに、気持ちは静かだった。
ありえん、自分じゃないみたいだ。
「ごめん阿部、嘘ついた。
はめられたのは本当だけど、アタシ・・・。
千代ちゃんから阿部が女の子に呼び出されたって聞いて急いできたんだよ」
「は?」
「嫌だった。
すっごい、自分勝手だけど。
阿部が他の女の子に告白されるって聞いて凄い嫌だった。
だから、ここに来たの、急いで、汗かいて、肩で息して、必死に」
「あー・・・・・・ちょっと、待て待て待て」
阿部が顔を片手で抑えて俯く。
でももう片方の手は前に突き出し待ったのポーズ。
これじゃぁ話せない。
「・・・・・え、何これ、ドッキリとかそういう類?」
「違うよ、違う、全然違うよ阿部。
アタシがこんなに必死だった理由わかる?」
「・・・・・・・・・ハッキリ言ってくれ」
「阿部が好きだからでしょ!
それしかないじゃんか!!
知らない女の子に嫉妬するほど阿部のことが好きなんだよ!
わかれ!このウニ!たれ目!!変態!!」
「変態はお前だ」
「ぎゃん!」
そ、そんなハッキリ言わなくてもいいのに!
っていうか、え、どうしよう、言っちゃったよ?
す き っ て 言 っ ち ゃ っ た よ。
どうしよう、さっきまで平気だったのに急に心臓がドキドキと・・・。
あぁ、やっぱり無理はしちゃいけなかったんだ。
完璧キャパオーバーだよちょっと!
恥ずかしすぎて顔が下を向きそうになる・・・。
けど、ここで下向いちゃいけないよね、うん、ダメな気がする、何となく。
頑張って顔を上げていたけど、阿部からの反応が無い。
え、アタシが告白したのに無反応ですかコノヤロー。
阿部はまだ、あの体制のままだ。
さすがのアタシも不安になって、恐る恐る声をかけてみる。
これだって結構勇気がいるんだ。
「あの・・・何か言ってほしいなー・・・なん、て」
「・・・・・・ぇよ」
「ん?」
アタシが聞き返すと、阿部は顔をパッと上げた。
その顔は赤く、少し、笑っていた。
あ、やばい、今きゅんとした。
「やべぇよ、うわ、マジで?本気か?
お前これ嘘だったらケツバットだぞ」
「嘘でこんなこと言うわけないでしょうに・・・。
本当だから、ええと・・・安心してというか、その・・・。
ああどうしよう、恥ずかしすぎて死にそうかも!!」
そう叫ぶのと、阿部に抱きしめられるのは同時だったと思う。
ちょっと待ってくださいよ阿部さん。
死にそうだって言ってるのに・・・こんなことされたら・・・
本当に死んでしまいそうです。
耳元で阿部が安心したように息を吐き出すのが聞こえた。
抱きしめられていた腕に、更に力がはいる。
アタシは一瞬固まってから、恐る恐る自分も腕を回した。
ああ、幸せだなと、不覚にも思ってしまった。
「よかった・・・」
「うん」
「本気で不安だった」
「うん」
「ふられるかもって」
「うん」
「よかった・・・」
「阿部」
「ん?」
「よかったね」
「ハハッ、他人事かよ」
「アハハ、まだ実感が無いからね」
しばらくそうやってアタシを抱きしめ続けた阿部は不意にアタシを放した。
そうして、こっちをむいて笑う。
その笑った顔がかっこよくてアタシはまた、きゅんとした。
何を言われるのかと少しドキドキしているとなんということだろう。
阿部は何事もなかったかのようにこう言ったのだ。
(でも、顔が赤いように見えたのは、気のせいじゃないよね?)
「おら、部活行くぞ」
「・・・もうちょっと余韻に浸らせろー部活ばーか」
一気に肩の力が抜けたアタシはふにゃっとしまり無く笑った。
それを見て阿部がアタシの頭を撫でてそうしてまた嬉しそうに笑った。
いつもと同じ会話
いつもと同じ憎まれ口
でも
お互いの手だけは
しっかりと繋がれていた
空を見上げると、雲ひとつ無い青空がそこに在った
この青空の下
アタシ達は幸せを感じる
毎日 毎日 同じ時間を共有して
例え喧嘩したって
泣くようなことがあったって
すぐに仲直りして
笑顔になって
そうして何度だって言ってやる
「「ああ、幸せだな」」
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