一番シンプルな気持ち
自分の中のちゃんとした答え
彼女と彼と青空と
31*悩み
「お前のことが好きだっていってんだよ!!!!」
一瞬とも数秒とも数分ともとれる沈黙の後アタシはやっと、ゆっくりと口を開いた。
でも空気がのどを通るだけで言葉にならない。
いいたいことが・・・あるのに・・・。
今度は空気だけで終わらせないように
声はお腹のそこから絞り出す。
「う・・・」
「?」
「うそをつけええええええ!!!!!」
叫び声と共に阿部の頭をはたくとスパーンという漫画みたいな音がした。
あ、やば、クリティカルヒット・・・。
思った以上に力が入っていたらしく。
阿部は頭を抱えるとフラフラと2・3歩後ろに下がった。
いつもなら多少は阿部の心配もするんだけど
今はハッキリ言ってそんな余裕はない。
自分の頭の中で渋滞が起こっている。
それをどうにかするので精一杯だ。
あぁ、これ何キロ先まで渋滞なんだろう・・・
なんて思いながらも自分を落ち着かせようとする。
おちつけーおちつけーおちつけー。
無理だって!!!!!!
どうしたものかとアタシは背中をさっき以上に棚にくっつけた。
・・・・・・・・・・え?
ちょ、この行動に何の意味が?
だ、だれかー!!ネジとドライバーもってきてー!!
頭のネジ飛んじゃった気がするよ!!!
「おっ・・・まえは!照れ方も尋常じゃねぇな!!
ちったぁソフトな対応でもしろ!!!」
「う、うるさいうるさい!!
だって、そんな、阿部が・・・急に言うからっ!」
「だからってお前なー・・・告白した相手殴るか!?」
「な、殴ってない!!はたいたんだよ!」
「どっちにしろ普通の人間はしねぇんだよ!!」
そ、そうなのかな!?
そういわれるとそんな気もしてきた・・・。
はたかないよね普通・・・あーだからアタシには
女の子らしさとかそういうものが足りないわけで・・・。
でもそーだとしたら阿部はアタシのどこを好きなったんだろう。
わっかんないなぁ・・・。
まぁそんなもの自分に分かるようなもんじゃないんだろうけどさ。
「おい」
「ぎゃっ!!な、なんでしょうか!?」
「なんでしょうかじゃねぇって・・・
結局どーなんだよ」
「あ・・・」
忘れたのか?って目で見られて、思わず明後日の方向を向く。
えー、そんな事ないですよー。
忘れてないですよー。
ま、まぁ・・・その・・・ちっと忘れてたけど・・・。
で、告白だけど・・・返事をどうするか。
アタシは考えるまでもないと思った。
だから悩みもしない・・・今の自分の正直な気持ち。
今の一番シンプルな気持ちをひっぱりだした。
そんなの、もうとっくに決まってるよ・・・阿部
「ごめんなさい」
「早っ!!!」
え、だって今の一番シンプルな気持ちを・・・。
「もっと考えるとかは!?何でそんな一瞬で期待砕くわけ!?
・・・・・あー、ま、考えた結果なら仕方ねぇか・・・。
ちなみに断った理由とかは?」
「え、直感」
「完璧考えてねぇだろ」
「だってよく分かんないんだもん、自分の気持ちが。
だからこんな変な気持ちではOKできないなーとか」
それを瞬間的に理解したアタシはすごい!!
・・・・・・はい、調子に乗ってすみません。
けどやっぱ中途半端な気持ちはよくないよー。
アタシこーいうの初めてだからよくわかんないけどさ・・・。
うん、やっぱいかんよね。
アタシの返事に阿部は考えるような仕草をした後
ハーと重いため息をついて頭をかいた。
困らせてるなー・・・アタシ・・・ごめんよ、阿部。
「よくわかんねぇ?自分の気持ちが?」
「うん」
「なら考えろ、脳細胞使え。
返事はそれからくれ」
「うん」
「もしお前が俺の立場だったとして・・・。
んな曖昧な返事で納得しねーだろ?」
「うん」
「ま、なんつーか・・・ゆっくり考えてくれたらいいし。
じゃぁ返事は今から3分後な」
「うんってええええええええ!?
それ全然ゆっくりじゃないし!!!どこがゆっくりだコラー!」
「生返事ばっかしってっからだろーが!!!!」
うっ・・・言い返せない・・・。
返事しながら考え事してたアタシが悪いんだけどね。
アタシはとりあえず阿部に考えておくといって
掃除を中断して帰るべく準備室を出た。
阿部はいつでもいいからな、とわたしの背中に声をかけた。
なんか・・・申し訳ないなぁ・・・。
『へー、阿部君に告白されたんだー』
「うーん・・・そーなんだよねぇ・・・」
お風呂上りに携帯を見ると千代ちゃんから今日のことについて
心配のメールが入ってたから、思わず電話をしてしまった。
今日のことは大丈夫だということを告げたあと
阿部に告白されたと話すと、どこか納得したような返事が返ってきた。
アタシはタオルで頭をふきながらベッドの上に座る。
近くにあったクッションを掴むと、ぎゅっと抱きしめた。
もっやもやするなぁ、胸が気持ち悪い。
あと少しで何かが分かりそうなのに、霧が邪魔してる・・・・
そんな感じだ。
『ま、阿部君も待ってくれるっていってるんだしさ。
しっかり自分の答えみつけなきゃだね』
「それがなー・・・うまくいかないんだよね・・・」
『アハハ!大丈夫だよ!
ちゃんはもうちゃーんと見つけてるんだから』
「・・・・・それ泉にも言われた。
あと担任にも“自分の中の、最もシンプルな気持ちを見てみろ”
なーんていわれちゃったよ。
なんか、皆が分かっててアタシだけ分かってない状況?」
『うん、そーだね』
「アタシのことなのにぃー・・・!!」
ボスッとクッションを殴ったら、抱えていたアタシまで
そのダメージを受けてしまった。自爆・・・。
電話の奥では、千代ちゃんの楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
ひ、酷いよ千代ちゃん・・・でも好きだ!!
『そーだなぁ・・・今までのことを思い返してみたら?
どうして自分がそんな行動をしたのか
どうして自分がそんな気持ちになったのか
自然と分かるはずだよ?
数学と同じ。難しく考えすぎたら解ける問題も解けなくなるよ。
焦らないで、ゆっくり整理していけば分かると思う』
「・・・・・・わかった。
ありがとね、千代ちゃん!やってみる!!
ごめんね、電話して・・・」
『全然大丈夫ッス!あんまり無理しないでね?』
「分かってまーす、じゃぁね、ありがと、おやすみー」
通話を終えた携帯を枕元に置いた。
そうしてクッションを抱えたままベッドに倒れこむ。
時計の針が動く音だけがきこえる。
アタシは目を閉じた。
わかる・・・かな?
アタシにも、ちゃんと・・・わかるのかな?
でも千代ちゃんが大丈夫だって言ってくれたし・・・。
頑張ろう・・・みつけよう、答えを。
いつまでもこのままじゃ、いけない気がする。
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