悪いことしちゃったなって
思ったんだけどね
彼女と彼と青空と
29*叫び
気分が沈みすぎてため息も出ない。
廊下を歩くのをやめて、窓の外を見てみる。
外は雲ひとつ無い青空だ。
その青が、なんだかとても憎たらしく思えた。
“俺がコイツと付き合うとかフツーにありえねぇだろ!!”
「っ!!」
あーもぉ!!また思い出した!!思い出したくないのにー!!
廊下に座り込んで頭を抱える。
迷惑そうにしてる人がいたけど知るか!!アタシを避けて歩け!!
フツーにありえないってなに?
あぁ、そりゃアタシは色気もくそもない女ですよ。
言葉づかい悪いし、足短いし、胸ないしさ・・・でもさぁ、でもさぁ
そこまで全否定しなくてもいいじゃんかー!!
って、なんでアタシこんなにショック受けてんだろ・・・。
ほっとけばいいのに、あんなやつ・・・。
「通行の邪魔なんだけど」
その声にハッとして顔を上げれば、そこには泉が・・・。
言葉通り、邪魔だという目でアタシを見下ろしていた。
けど、数秒後には、その顔はニヤリとしたものに変わる。
「で、、映画どーだったよ?」
「っ!!うっ、うわぁぁぁああん!泉ぃーーー!!」
「おわっ!?は?・・・な、何だよ!?」
飛びつこうとしたアタシをさらりと泉が避けるから
アタシはそのまま廊下に鼻をぶつけてしまった。
ち・・・ちくしょー泉め・・・。
いつもなら可愛いから許すけど、今回はいただけないぞ。
まっまじで鼻血でそうだ・・・!
鼻を押さえて立ち上がると、アタシは泉にこの前のことを話し始めた・・・。
「はー・・・そんなことがなー・・・」
「うん。アタシ帰っちゃったよ・・・。
どーしよう、せっかく楽しかったのに・・・」
「まぁ、阿部も素直じゃねぇしなぁ・・・」
廊下の窓を開けてうなだれる
すると隣で泉が苦笑いをした
「なんつーか、チケット・・・俺、やらない方がよかったかもな。
余計なことしたかもしんねー」
「いやいや!そんなことないよ!!
全然!そんな事は気にしないでいいんだって!!
ただ・・・」
「ただ?」
「・・・・・・・・阿部に言われたことがショックで。
でも、何でショックだか分からなくて・・・こう、もやっと」
「・・・・・・・・・・・・・は?」
「ん?何?」
泉を見ると、信じられないといった風に目を丸くしている。
え、何でそんな顔してるんですかちょっと。
そんな顔してる泉を見てこっちが目を丸くしたいよ。
アタシなにか変なこと言いましたか?
そのアタシの物言いたそうな視線に気づいたのか
泉は窓の外に目をやると、どこか楽しそうな声で言った。
「や、まだ気づいてなかったんだと思って」
「気づいてない?」
「あー、まぁいいや。
とりあえず、仲直りの方法が見つかった」
「え!?まじで!?なになに!?どーしたらいいの!?」
泉がこっちを向く。
とても楽しそうな顔をして。
「それは自分で考えろよ、俺の問題じゃねぇもん」
「なっ!?薄情者ーー!
アタシがこんなに胸にもやもやため込んでるのに!
見てみぬふりするのか!?」
「それだって。
お前本当は気づいてんじゃねぇの?」
「だから何が!?」
「“何でショックなのか”。
気づいてて、気づかないふりしてるだけだと思うけど?」
「・・・気づかない・・・ふ・・り・・・?」
それって、どういうことだろう・・・。
考えようとしたら、突然かけられた声にさえぎられた。
泉が向いている方を見ると、そこには、この前の男子がいた。
・・・・っていっても、3人のうちの1人しかいなかったけど。
今日は他の友達と一緒らしい。
「おー、この前のじゃないですかー。
あれからどー?阿部とは仲直りできましたかー?」
うっざ!!!なんだこの人!!えーっと、軒下!!
すっごくうざい感じだぞ軒下!!
「おいおい、鶴岡、やめとけよ。
お前も原因なんだろ」
鶴岡だったーーー!!!
っていうか、とめに入ってくれた人いい人!
誰だか知らないけど!
「へーへー。でもよー、も大変だな。
あんなのが旦那だと」
「別に・・・旦那じゃないし」
「はぁ?そーなん?
でも、あれだな、気持ち分かる気がするわ」
「はぁ?」
何が分かるっていうんだろう・・・。
泉も、意味が分からないという風に眉を寄せている。
というか本格的にどこかに行ってほしくなってきた。
阿部のことでからかわれるのは・・・嫌だ。
「だってあいつ、すぐキレるだろ。
しかも何か人見下したような感じしねぇ?
ちょっと調子乗ってるかんじするよな」
「っ!!!テメッ!!!」
「うわっ!!落ち着け!!!」
殴りかかろうとしたところを後ろから泉に押さえられる。
けど、怒りが、とまらない。
アタシはその怒りを吐き流すかのように、叫んだ。
「ふっざけんなよ!!!見下す?調子乗る?
どこかだ!!!!そりゃあんたのほうだろーがぁ!
よく知りもしないくせに、悪口ばっか一丁前にぬかしてんなよ軒下ぁぁぁっ!」
「っんだと!!!え、つか、誰が軒下だゴラァッ!!」
「おい!落ち着けよ鶴岡!!」
「うるせぇ!!この女ぜってぇ殴る!!」
「あぁ!?やれるもんならやってみろよ!!!」
「やーめーろーー!!おい水谷ィ!!
お前も手伝え!!!!」
「えぇ!?何してんのー!!?!」
いつの間に加わったのか、水谷までアタシを止めている。
けどそんな事はどうでもよかった。
殴る!この男絶対殴る!!
でも、男二人で抑えられたんじゃぁ、アタシも動けやしない。
あーもぉ!!イライラする!!
廊下が騒ぎに気づいてざわめきはじめたその時だった
「止めんかこのクソガキ共っ!!」
「「ぶっ!!?」」
頭の上に辞書がふってきました。
あはははは、とうとう辞書も空飛ぶ時代ですか。
って、んなわけない。
アタシが痛みに悶えながら顔を上げるとそこには・・・。
「ヤッ、ヤァ、ティチャー、お仕事ごくろうさまです」
「本当にな、お前がまた一つ俺の仕事を素敵に増やしてくれた。
感謝しよう」
素敵な笑顔の担任がいましたとさ。
わーい、なんだこのバットエンド。
相変わらず笑顔が怖いよー・・・・・・。
「いやー、そんな、感謝されるほどでは・・・」
「お礼に職員室への招待券をプレゼントしよう。
豪華にも2名ペアチケットだ」
「うわぁーい、いらないので帰ってもいいですか?」
「あぁ、辞書は何度でも使えるんだったな」
「行かせていただきます!!」
よし、という言葉の後に、襟首をつかまれて強制連行される。
もちろん軒下・・・じゃなくて鶴岡も。
アタシは呆然とする泉と水谷に手を振った。
ついてない・・・まさかこんなことになるなんてなぁ・・・。
まぁ確かにアタシも感情に流されすぎたよ、そこは悪いって認めよう。
でもさ、やっぱり悪口は、許せないかな・・・。
なんて、担任に引きずられながら、そんな事を思った。
ちなみにアタシたちはその後、職員室で十分な説教を受けることになった。
そうしてもう二度と、問題は起こさないと心に決めた瞬間にもなる。
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