...07...
「でな、そのその時準太が・・・・」
「あ・・・・あっははは・・・・そうなんですか」
ストップ。タイムタイム。ええと、なんですかこの状況。
今私の隣には自転車を押す慎吾さんがいて、しかも一緒に歩いてるんです。
まぁ簡単に言うと一緒に帰っているんだけれど。
先生、わたしにはなんでこうなったか理解できません!
さりげなく歩幅を合わせてくれる慎吾さんの顔を見ていると、視線に気づいた慎吾さんが
「ん?」といって私の顔を見た。
じろじろ見ちゃってすみません!!
羞恥で顔を真っ赤にした私は勢いよく視線をそらす。
そもそも私は、部活が終わったら一人で帰るつもりだったんだ。
でも帰ろうとしたら準太が「慎吾さん、コイツ送ってやってくださいよ」
なんて、お前ばかかー!みたいな事いっちゃって・・・・。
ちゃんと断ったし、実際一人で帰ろうとしてたんだけど何故か慎吾さんが了承して
「待ってろよ」なんて言ったから私の体は金縛りにあったみたいに動かなくなってしまった。
・・・・・・・・本当に私はばかだと思う。
結局こうやって一緒に帰ってるんだけど・・・・なんていうか申し訳ない。
慎吾さんの家は真反対とまではいかなくても方向は違うらしく、部活終わって疲れてるのに
わざわざ歩かせてまで送ってもらうのは正直心苦しいというか・・・・。
あと、慎吾さんはさっきから楽しそうに部活のこととかをしゃべっている。
それに下手な相槌しかうてない自分が嫌になる。
きっと、わたしなんかと帰ったっておもしろくないだろう。
わたしは何度も声に出してごめんなさいと言いたくなる衝動に駆られた。
「、いっつもこの道帰ってんのか?」
「うぇ、あっ・・・・あぁ、はい、そうです」
突然質問されたから驚いてとっさに反応ができなかった。
まぁ自分の考えに入り込みすぎてたっていうのもあるんだろうけど・・・・。
そんな私を気にしない様子で、慎吾さんは話を続けた。
「この道結構暗いだろ・・・・女一人って危なくねぇ?」
「いえ、大丈夫です。
それに、道が暗いのは、ええと・・・・どこに行っても、同じだと思うので」
「ああ、そりゃそうか」
ぶはっと笑う慎吾さんはかっこいい。
ありえない、何だこの人、笑うだけでかっこいいなんて犯罪だ。
「怖かったら言えよ。いつでも一緒に帰ってやる」
「え!?そそそそそんな、迷惑かけれませんよ!」
「いや、全然大丈夫だって。男子の体力なめんなよ?」
あぁ、そんなこと言われたら、またお願いしたくなっちゃうよ。
私は赤くなった顔を隠すように、周りを見た。
すると少し先にいつも寄ってるスーパーが見えてなぜかほっとする。
スーパーは電気で明るく暗闇に光るそれは、いつもと違う場所のように見えた。
「こっ、ここで、大丈夫です・・・・!」
私は色々と限界だったのでスーパーの前で歩みを止めた。
慎吾さんは数歩前にいて、振り返ってこっちをみる。
「あの、私の家・・・・ここから近いので・・・・」
「最後まで送ってくぞ?」
「そっ、そんな、大丈夫ですよ、・・・・本当に!
あ、いえ、別に嫌とかそういう意味では、決して!!」
「くくっ・・・・そうか、じゃぁ気ぃつけて帰れよ」
慎吾さんはその場でUターンして、歩き出した。
数歩前にいた慎吾さんは私の横をあっさりと通り過ぎる。
(あ・・・・・・・・)
自分で大丈夫だって言ったくせに、急に心細くなった。
なんて我が儘な女なんだろうか。
「あっ、あのっ!」
気づけば私は慎吾さんを呼び止めるために声を出していた。
でも、続きが出てこない。
当然だ、何も考えないで呼び止めたんだから。
慎吾さんはまだ自転車に乗っていなかった。
それを見て、まるで私が呼び止めるのがわかってたみたいだと思った。
「ん、どうした?」
「・・・・・・・・」
それは私も聞きたいことなんです。どうしたんだろう、私・・・・。
実は言葉の続きがありません、とか言ったらどうなるのかな?
怒られたり、呆れられたりすると思う。
・・・・ひょっとして、もうすでに呆れられてる?
「めっ・・・・」
「“めっ”?」
「メアド・・・・教えて・・・・もらえません、かっ、なーんて」
沈黙。
その沈黙が痛くて泣きたくなった。
だって必死に頭を回転させた結果がコレ。
私の脳みそはきっと腐ってるんだ、おかしいんだ。
だからこんな場違いな言葉が出てくるんだ、最悪、泣きたい!
でも泣くなんて、それこそ本当におかしかったから我慢して前を向く。
すると予想に反して、慎吾さんは笑っていた。
面白そうに笑いながらこっちに近づいてくる慎吾さんに戸惑う。
私はなにかおもしろい事をいっただろうか?
なんて考えている間にも慎吾さんはわたしの前に来ると、ズボンのポケットから
携帯をスッと、きれいな動作で取り出した。
その動作にすら見惚れてしまう私はもう重症だろう。
とりあえず私は、考えがついていかなくて呆然とするしかなかった。
え、なにこれ、どうしたらいいの?
そのわたしの呆然とした様子がおもしろかったのか慎吾さんはまた笑って言った。
よく笑う人だなぁとぼんやり思ったことは口には出さなかった。
「赤外線でいいよな?」
「―――っ!?はいっ!」
言われた言葉を理解すると、急いで携帯を取り出して赤外線受信をした。
メアドを受信するだけだからあっという間に受信が完了して、恐る恐る電話帳を見ると
数少ない登録番号の中に慎吾さんの名前があって顔が赤くなる。
受信し終わると慎吾さんは「メール送っといて」と言ってくるっと方向転換して自転車に乗った。
「しっ、慎吾さんっ!」
もう一度呼び止めた私を、不思議そうに見る。
大丈夫、今度は続きを考えてある。
私は大きく息を吸い込んで、勢いよく頭を下げた。
「送ってくれて、ありがとうございましたっっ!」
慎吾さんは少し目を見開いてから、いつもの顔に戻るといった。
「おー、また部活来いよー」
「う、ぁ、はい!」
しばらくすると慎吾さんはみえなくなった。
だけどわたしは、それでも少しの間そこにいて慎吾さんのいなくなった方向を見ていた。
強く握り締めた携帯が、なんだか特別なものに思えた。
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