...06...



学校からの帰り道にあるスーパーに入るといつも通りの人の多さに少しうんざりする。
もう少し時間をずらせば人も減るんだろうけど一回家に帰ってまた来るのも面倒だ。
私はいつものように店の中に入るとかごを持った。
外とは違いひんやりとした店内はむしろ寒いくらいで、一瞬で汗が冷えた気がした。


この1年間の一人暮らしで買い物にもすっかり慣れた私は次々と必要なものをカゴに入れていく。
明日は部活を見に行くからどうせそのまま帰る予定なので明日の分も買っておかないといけない。


今日は買い物袋が重くなるんだろうななんて考える。
なるべく余分なものは買わないようにしないと大変なことになりそうだ。


そこまで考えてふと立ち止まる。
周りの人は急に止まった私を邪魔だという風な顔で避けていくから、慌てて隅によった。
とりあえず歩かないとまた邪魔になるだろうと私はふらふらと歩きだす。


そうだ、明日なんだよね・・・・野球部見に行くの。
皆すっごく頑張ってるんだもん何か差し入れしてあげたいな。
けど・・・・けど・・・・。
なにを持っていけばいいのやら、見当もつかない。


スポーツドリンク?ううん、これはダメ。
マネージャーさんの仕事が無駄になっちゃう。
アイス・・・・は、とけちゃうか。
甘いものはよく考えないと、食べれない人がいちゃいけない。
うーん、どうしよう・・・・。


一人でうなっていた私は他の人から見ると多分、凄く関わりたくない人だったと思う。
けど、その時の私は考えることで頭がいっぱい!
思考回路はショート寸前だったのです。だから正直、そこまで気が回らなかったんです。


甘さも調節できて。
家に持って帰れて。
大量生産できるもの。


「―――あ」


その場でしばらく考えていたら、頭の中にパッ思い浮かんだものがあった。
思わず出してしまったその声を気にせず、私は目的の場所へと歩く。
そうだ、アレなら。
簡単だし、焼き加減さえミスしなければ・・・・いけるはず。


歩きながらそもそも差し入れというのは迷惑なんじゃないかと考えた。
私の悪い癖だ。
なんでもマイナス思考に走り、不安を次々と生んでゆく。
嫌がられたりしたらどうしよう。
食べてもらえなかったらどうしよう。
せっかく、話せるようになったのに。


でも、それでも。
なんだかあの人たちなら笑ってくれる気がして。
ありがとう、って、笑顔で受け取ってくれる気がして。


(慎吾さん、なら・・・・)


ちゃんと、受け取ってくれるんだろうか。
実際のところ一番好きなのは慎吾さんなのだが、一番話したことがないのも慎吾さんなわけで。
だからわからないのだ。どんな反応が返ってきそうか、なんて。


それでも・・・・少しだけ、頑張ってみたい。
いつもキラキラした気持ちをもらってばかりだから、私も何かかえしてみたいのです。
おこがましいだろうか?





*





カキーンというボールを打つ音が聞こえる。
その音に近づくと、私の心臓がうるさくなるのが分かった。
き、緊張する!そりゃもう心臓飛び散る勢いで緊張する!!
落ち着け私・・・・!!なんて自分に言い聞かせるのも逆効果で私の心臓はうるさくなるばかりだ。


そんなことをしているとグラウンドに到着。
なんだか泣いてしまいたい気分だ・・・・小心者の自分に乾杯。
せめても、と、グラウンドに入る前に深呼吸を一つ。
うん、大丈夫、少し落ち着いた・・・・気がしないでもない。


さてと、いつまでもこうしてるわけにもいかないと私はグラウンドに入って準太を探した。
・・・・・・・・って、どこなの準太!!
人が多すぎて分からない。視力はいいはずの私だが、なんだかどれも準太に見えてきた!!
なんて錯覚にとらわれながら入り口で慌てていると私を呼ぶ声が聞こえた気がした。
声がしたほうを向けば準太がこっちに向かって走ってくるのが見えた。


「っ!!」

「準太ぁ!!」


その姿に安心して泣きそうになりながら名前を呼べば苦笑された。
準太のユニフォームはどろどろで、それだけ頑張ってるんだななんて思う。
というか今練習中じゃっ・・・・!?

「ブハッ。なんだその迷子みたいな顔・・・・」

「うるさいなー!っていうか準太!れっ、練習は!?大丈夫なの!?」

「たった今休憩になったんだよ。待ってろ、もうすぐ皆来るから」

「えぇ!?くる・・・・の!?いいよそんな・・・・!!」

「えー?何でー?」

「ヒャッ!?」


いきなり真後ろから声が聞こえたから肩が跳ねてしまった。
そのことを恥ずかしく思いながら振り返るとそこには楽しそうな顔の山ノ井先輩がいて
その先輩の後ろからは顔見知りの野球部員がこっちに来るのが見えた。
うわわ、本当にこっちにくるんだ・・・・なんか緊張する!!


「アハハ、ビックリしてるー」

「だ、だって!先輩がいきなり出てくるから・・・・っ!」

「へぇ?いきなり出てくんのはそんなビックリすることなんだ?」

「キャーーー!?ししししし慎吾さん!!?」

「えー・・・・なんかオレだけすっげぇ叫ばれたんだけど・・・・」

「日ごろの行いの差だね」

「いや、特に何もしてねぇだろ。つかむしろヤマちゃんのが行いは悪いはずだ」


そういって笑いあう二人を見るのはとても平和だと思う。
けど、慎吾さんに山ノ井先輩と同じことをされた私は平常心じゃなく色々な意味で死にそうです。
後ろって・・・・!声近いんです慎吾さん!!


「もー、慎吾さんにヤマサン。あんまコイツからかわないでやってくださいね。
 はいじり過ぎると泣きますから」

「なっ!?泣かないよ!泣いたことなんかないじゃん!!」

「あーれ、そうだっけ?わりぃわりぃ」


あぁ、絶対この人も私をいじって楽しんでるんだ!
悪いって顔してないもん!むしろ楽しそう!何だろう、野球部ってSな人が多いのだろうか。
するとそこでふと手に持つ紙袋の存在を思い出した私は「あの!」と声を出す。
さっきまで楽しそうに話していた皆の視線が私に集まった。いたたまれない・・・・。


「これ、差し入れなんで、よかったらどうぞっ!!」


あまりにもいじられたからヤケになって半ば押し付けるようにして紙袋を差し出す。
中にはラッピングしてあるクッキーが入っている。
大量生産という点を考えれば妥当だろうが結局あれだけ考えた結果がありきたりなクッキーとは。
ちょっとだけ自分の料理レパートリーのなさに情けなくなった。
けれど皆は予期せぬ差し入れに目を丸くしているようだ。
一番に声をあげたのはやっぱり利央くんだった。


「おー!すげぇ!さんの手作りっすか!?」

「まぁ、一応・・・・あの、おいしくなかったらごめんなさい。
 私料理するにはするんですけど、不器用で・・・・」

「えー!?フツーにおいしいっすよ!!」

「ほんと、普通にっていうかかなりおいしいよ?」

「って料理うまいんだな」

「た、食べるの早っ!もう食べてるんですか!?
 でも、あ・・・・ありがとうございます!!」


よかった、どうやら差し入れは成功したみたいだ。
皆おいしいって言いながら食べてくれた!
部活の後で食べるという人もいたからやっぱラッピングしといて正解だな、なんて思ったり。


そうしてなんとなく周りに視線をやるとなぜかちょうど慎吾さんと目が合ってしまった。
うわ、目があった!!う、うれしい!じゃなくて!
これどうしたらいいんだろうか?と考えた私は一応ヘラリと締まりのない顔で笑ってみた。
すると何故だか慎吾さんは肩を震わせて笑いだして、私は意味がわからなくてまた慌てる。
そんな慌てる私を見ると慎吾さんは笑顔で口を動かした。


「クッキーありがとな」

「う、ぁ、はい!!」


その後すぐに練習を再開したからわたしは邪魔にならないようにそそくさとフェンスの向こう側に移動。
今日ここに来てよかったな、ってぼんやり考えてなんだか幸せな気分になる。


また・・・・きてもいいのかな?
とりあえず練習が終わったら準太にでも聞いてみよう
そう決めて、私は最後まで練習をみていた



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