...05...



「準太、準太!あのね、さっき慎吾さんが・・・・」


ついさっき下で起きたことを話すと準太は笑いながら最後まで聞いてくれた。
そうして「これでがバナナオレ好きになったな」なんていうから、急に恥ずかしくなった私は
「ずっと好きだったよ!!」と返して顔を背けてごまかした。


けど実際はその通りで、私はこれからバナナオレを買うことが多くなるんだろう。
なんて現金な人間なんだとぼんやり考えてやっぱりまた恥ずかしくなる。


顔があつい。
最近はよくこうなって困ってしまうんだけれど・・・・。
この気持ちは嫌じゃなくて、むしろ少し嬉しかったりする。


前までの私ならこんなことはなくてただ下を向いて毎日が過ぎるのを待ってた。
自分の足元を見て、苦手だからと人との触れ合いを諦めていた。
教室で楽しそうにしているクラスメイトを見て、泣きたくなることも何度もあったけれど
その度に“自分から動けないくせに、なにを・・・・”と自分に言い聞かせた。
他人と笑うなんてそんななかったし、ましてや照れたり、恥ずかしくなったりすることなんか
皆無といっていいぐらいだったのだ。


でもあの日準太が話しかけてくれて、今は野球部の人たちとも知り合えた。
野球部の人たちとはまだ上手く話すことは出来ないけれど。
けど・・・・それでもおかげでこうして笑っていられる。
小さな小さな自分の変化を感じることができる。
それが嬉しくて私はまたほんの少し幸せになれるんだ。


「なに一人で笑ってんだか」

「え?」


そう言われてぺたぺたと頬を触れば、今自分が笑っていることに気づく。
うわ、私一人で笑ってたんだ・・・・。
まさか顔に出てるなんて思ってなかった。
準太、気味悪く思ってないかな・・・・?


不安に思ってみると準太はふぅとため息を1つついて、それから肩をすくめた。


「今更だろ、お前の百面相は」

「なっ!?」


なんで考えがわかったの!?っていう思いと、そんなことないよ!!っていう思いが混ざって
言葉が出てこず、ただただ驚いて目を丸くする。
準太はそれすら分かっていた、予想通りだとでもいう風に「舞は顔に出やすいんだって、つか出すぎ」
といって私を見るとニヤリと笑った。
この顔を見ると少し悔しくなるのはなんでだろう・・・・。


いや、そうじゃなくて!
私はそんなに顔に出てるのだろうか。
・・・・これからは気をつけなければ私はウソの一つもつけないってば。
別につかなくてもいいんだけれど、こう、いざって時のために。
あれ?それってどんな時?


まぁいいか、なんて自己完結をして前を見ると準太がこっちをじっと見ていた。
なっ、なんですか?と聞けばまた笑われてしまった。


「お前今絶対にオレの話きいてなかっただろ?」

「・・・・え、へ?あ、はい・・・・えぇ?」

「落ち着け、とりあえず」

「う、うん。ごめんね、もう一回言ってもらえる?」


話を聞いてなかったことが申し訳なくって苦笑いをしながらお願いをする。
呆れた様子も見せずもう一度話し始める準太はすごく心が広いと思う。


「だーかーらー。部活一回見にきたら?って言ったんだよ。
 お前いつも上で見てるだけだし」

「いっ、いいの?だって私が・・・・部外者が行ったって邪魔じゃない?」

「邪魔だったら皆来いっていわねぇって。そんな遠慮しなくていいんだよ。気にしすぎ」

「・・・・そう、かなぁ?」

「そうだよ、な?」

「う・・・・ん」


歯切れの悪い返事をしたけど実際、じゃぁ行こうかな?なんて思っている。
少しでも邪魔ならすぐに帰ればいいんだ。
それに・・・・野球をする慎吾さんを近くで見たい。
あのキラキラしたかっこいい姿が見たい。
そう考えると、案外決断は早かった。


そんな考えが出てくる、完璧に「恋する女の子」な自分が恥ずかしい。
こんなの似合わないのに!
と、思う一方でこの想いはどうにも止まりそうもない。


「んじゃぁ決定で!いつ来る?今日?」

「あっ、ううん、今日はちょっと帰りたいかな。買い物がしたいから・・・・」

「あぁ、そっか。お前一人暮らしだっけ。すっかり忘れてた」


そう、私は一人暮らしなのです。
一応進学を希望してる私は今のうちから一人暮らしに慣れておこうとアパートの一室を借りている。
と、いうのはこじ付けでいい加減人慣れしないといけないと危機感を感じた私が
申し訳ないと思いつつも自分の意見を通したのだ。
親も多少不安はあるみたいだったけど人見知りの激しい私に世間慣れして欲しいと
案外あっさり許可が出たのだ。
ただ、あまり成果が出せていなかったのが心苦しかったんだけれども。


一人暮らしは高校に入ってすぐのことだから私は家事はそれなりにできたりする。
料理は・・・・おいしいかどうか知らないけど。
だって、人に食べてもらったことってあんまりないんだから。
それでも人並みには出来ると思う。・・・・多分だけど。


まぁそういうことで。
私は家に帰って家事をしなくちゃなのだ。
べつに夜でも出来るけど、できれば夜にはゆっくりしていたい。


「えっと、部活は明日見に行くよ。放課後に・・・・朝は私起きれないから」

「了解、皆に伝えとく」

「え!?伝えるの!?」

「伝えます」

「・・・・・・・・はい」


そんな伝えるほどのことでもないのにな・・・・。
一応その後、準太から休憩時間を聞いておいた。
休憩時間に行くか練習中に行くかは明日決めよう。


なんだか今からドキドキしてきた。
すごく楽しみだ。
早く明日になればいいのにな、なんてのは思いすぎかな?



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