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あの屋上の出会い以来
野球部の人たちは私によく話しかけてくれる。
それはものすごく嬉しくって、でも、それと同じくらい緊張してしまう。
だから私は未だに上手く会話ができなくて、こんな自分が情けないと思う毎日なのです。


本当は皆迷惑してるんじゃないのかとか、嫌な思いしてるんじゃないのかなんて最初は考えてた。
だけどそんなことは感じさせない笑顔で皆が話しかけてくれるから、もうここまできたら疑うのが失礼だと思って
わたしはその考えをそこら辺のゴミ箱に捨てた。
ポイッと。燃えるごみと一緒に。


最近は準太がいなくっても少しは話せるようになった。
これは私にとっては偉大な進歩だぞなんて考えて「やってやったぜ」と誰に対してということもなく
ない胸を心の中で精一杯張ってみる。張るだけ。声には出さないけど。
けど話せたことが嬉しくて、準太に報告するとよく頭を撫でられる。
そのとき準太の目は、妹を見るような目なのでなんだかとても悔しいわけですが・・・・。


けどやっぱり、ここまで話せる環境を作ってくれたのは準太だから。
口げんかしたり、なんだかんだ言いながらも準太には感謝しているのです。
私一人じゃ一生できなかったに違いない。


あぁ、けれど、けれど・・・・!
どうしても慎吾さんとは上手くしゃべれないのが悲しい現実。
慎吾さんとは一対一で話したことはない。
だって恥ずかしいのですよ、って、そんな事言っててどうするんだって感じだけれど。
一番話したい人と話せないだなんて・・・・これこそ張る胸もない。


ばかだね私。
せっかく準太がチャンス作ってくれたのにこれはない、本当に。


だから多分・・・・これは試練とか罰とかそういう類のものだと思う・・・・!!!


「お前って本当百面相だよなー」

「えっ?へ・・・・?あっ、すみません・・・・」

「いやいや、謝るとこじゃねぇって!」


そういって笑う慎吾さんはステキです。
太陽みたいです。
きらきらしてます。
眩しいです。
太陽みたいです。
じゃなくって!


どーーーーーうしようこれ!


ちなみに今は昼休み。
のどが渇いた私はたまたま購買に行ったんだがそしたらなんと偶然にも慎吾さんが一人でいて、
そんでもって気付いた慎吾さんに「おー、」なんて声をかけられて。
何でだか一緒にジュースを飲むことになって。
今、外の木陰で一緒にジュース飲んでます。


すっごく緊張してる私は正直ジュースの味なんか全く感じません!
あれ、これなにジュースだったっけ?
なんて思いながらパックを見るとそこには黄色い文字で「バナナオレ」。
・・・・・・・・どうやら私は今バナナオレを飲んでいるらしい。


隣で慎吾さんはなに飲んでるのかな?
ちょっと気になって横を見ると私のと同じ黄色い文字で「バナナオレ」。
うわっ、どうしよう、なんか嬉しい・・・・。


これって会話作れる?うん、そうだ、作れる作れる。
よし言おう。がんばれ自分、きっと言える。落ち着いて落ち着いて。
「慎吾さん、ジュース同じですね」だ。
あっ、でもやっぱ島崎先輩って言うべき?
いきなり名前呼びか!とか思われそうだ。
よし「島崎先輩、ジュース同じでしゅね」。


心の中でもかんだ!!死にたい!!


「あっ、あの・・・・!」

「おぉっ!?どーした、そんな構えて」

「しっ・・・・・・・・島崎先輩、同じジュース・・・・ですね、って」


何を言ってるんだ私は。
こんなどうでもいい話題しか出せない自分が恥ずかしくなって言葉が尻つぼみになってしまった。
その事がまた恥ずかしくて、私は下を向いてしまう。
もういいです、こんな不審者なんか警察に突き出してください。


「ブッ!!今更かよ!気づくのおせぇー!」

「ごっ、ごめんなさい。私、その・・・みてなくって」

「で、どう?」

「は・・・・い・・・・?」


どう、とは?


「オレと一緒で嬉しいとか?」


そういってニヤリと笑う慎吾さんをみて熱かった顔がさらに熱くなった気がした。
ううん、これは確実に赤くなった。


ば れ て た ! ?


いや、違う。
私はこの表情を知ってる。
これは私をからかう時の準太と同じ表情だ。
わかってる、わかってるけど、赤くなった顔はそう簡単に戻ってはくれない。


「おー、顔赤いな。もしかして図星?」

「なっ!?ちっ、違います!そんなんじゃっ・・・・!」

「いやいや、その顔は図星だろ。照れんなよ。ほら、慎吾さんの胸に飛び込んどいで」

「と、飛びっ!?なっ、と、飛び込みません!!!!!」

「ハハハッ!冗談だって!そうムキになんなよ」

「うぅ・・・・」

「お前おもしれぇ!利央並みにいじりがいあるなー!」

「利央くん・・・・と、おっ・・・・同じ!?」


利央くんって確か部内でも結構いじられキャラだって準太から聞いたような気が。
え、私そこまでいじられキャラなんですか慎吾さん。
私全く面白くないですよ、全力で。
そうして、慎吾さんはSなんですかそうですか。


そんなことを考えてると急に慎吾さんが立ち上がった。
携帯をみれば、なるほど、もうすぐ昼休みも終わる。
慎吾さんはズボンについた汚れを軽くはらってから私を見下ろしていった。


「んじゃぁ、オレそろそろ行くな」

「あっ、はい、・・・・ありがとうございました島崎先輩」

「あー・・・・島崎先輩とか呼ばれなれてねぇんだよな。なんか違和感あるから慎吾でいいぜ」

「はぁ。・・・・・・・・えっ・・・・えぇ!?」

「ほら、慎吾だって。し ん ご」

「・・・・慎、吾さ・・・・ん?」

「おっし。よくできました、っと。じゃぁな」


去り際に髪の毛をくしゃっとする。また顔が熱くなった。
私は呆然と離れてゆく慎吾さんの後姿を見ていた。
気だるそうに持たれたバナナオレが歩くたびに揺れている。
そうして慎吾さんが見えなくなったあと誰に言うわけでもなく小さな声で「慎吾さん」と呟いた。


まるで自分でその言葉を使っていいものだと再度確認するみたいな行動だなって思う。
けど呟かずにはいられなかった。


私ってお昼休み運いいのかもしれない。


顔を赤くしたまま私もスカートの汚れを払うと立ち上がった。
さぁ、報告しに行きましょうか。
私の貴重なお友達様に。



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