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何でこんなことになったんだろうとかそんなこと考えてる余裕もなくて。
とにかくとにかく気持ちに余裕がないのです!


あの後、軽く自己紹介をすると準太に背中を無理矢理押されながら
野球部メンバーの輪に加わりお弁当を広げたわけですが・・・・。
そこが、なんと慎吾さんの隣!!
だれか!助けてください!!嬉しいけど、嬉しいんだけど、緊張がっ!


ちなみに左隣は準太が当然のように腰を下ろしたことにほっと一安心する。
よかった・・・・。
この人がいないと緊張で私は死んでしまうかもしれない。


心臓が爆発までのカウントをとっているみたいだった。
そのカウントに耐え切れず、カウントが終了する前に私の心臓は爆発しそうだ。
錯覚ではなく本当にそうなりそうな気がして、急に怖くなった私は心臓のあたりを
軽くつかんで自分を落ち着かせる。
こんなに心臓に悪い昼休みは初めてだ。


「いやーしかし、準太が女子連れてきたときには驚いたぞ」

「本当だよねー。オレ彼女かと思ったよ」

「あははっ!なんスかそれ!和さんもヤマさんも勘違いしすぎですよ!」

「は?ってお前の彼女じゃねぇの?」

「えぇー!?違うんっすか!?」


慎吾さんが勘違いしてたことがショックだったけれど・・・・。
何も知らない初対面なんだから仕方ない。
そう、仕方ないんだけど妙に悲しくなってしまう。


というかこの注目の集まり具合は何だろう。
どうして私に視線が集まるのだろう・・・・準太に聞けばいいのに!!
なんて思っていてもそれを口に出せない私は相当の小心者だ。
私は仕方なく食べようとしていた卵焼きをお弁当に戻した。


「えっと・・・・あの・・・・」

「どーなんすか!?彼女ー!?」

「ちが、ちがい・・・・ます」

「なーんだ、面白くない!」

「おい利央、何が面白くないだと?」

「うわっ!?準さん!ちょっ!怖い怖い!」


そうして準太と利央くんのじゃれあいが始まる。
この昼休みにはよく見られる光景だから、多分これはいつものことなんだろう。
先輩方も何も気にすることなくお弁当を食べていた。
でも、みてて面白いけど利央くん結構必死だよ?
助けなくてもいいのかな?
準太も手加減してあげればいいのに、と思い軽く息を吐き出す。
たまにSなんだから困った人だ。


「なぁ」

「ひゃっ!?」


いきなり真横から声が聞こえてきたので変な声を出して思わずのけぞった。
失態!でもそうなって当然だと思う。
だってその声は聞きなれた準太のじゃなくて、慎吾さんの声だったから・・・・。


「っと、ワリィ。まさかそんなに驚くとは・・・・」

「いっ、いえ!だ、大丈夫です!」


本当は全然大丈夫じゃないんだけどそんなことは言えなかった。
だってせっかく初めて話しかけてもらえたのに呆れられたらそれこそバカみたいだ。
なんとか心臓を落ち着かせようとしたけどそんなことは当然無理で・・・・。
仕方がないから私はうるさい心臓の音を感じながら話の続きを待った。


「喋りづらいか?」

「へ・・・・?」

「いや、ここ来て自己紹介以外一言もしゃべんねぇからさ。
 つまんねぇのかと思って・・・・。
 だってなぁ、こんな男の中に紅一点は女子にとっちゃキツイんじゃねぇの?」


う、そ・・・・心配してもらえた・・・・?
そう感じた瞬間には再び顔が真っ赤になってしまっていて、私は何も言えずに
ただ金魚のように口をパクパクと開閉させるしかできなかった。
目の前の慎吾さんが不思議そうにこっちを見てくるがこの際そんなことは無視だ。


慎吾さんにとっては別にこんなこと特別なことでもないんだろう。
相手が私じゃなくてほかの女の子でもきっと同じこと言うんだろう。


もしかしたら心配じゃなくてただ自分の隣が暗いのが嫌だっただけかもしれない。
なんだコイツ、うっぜーな。
仕方ないから話しかけてやるか。
なんて思ってる可能性もないわけじゃないんだ。


けど、昨日まで窓からしか見れなかった人が今日私に対してこの言葉をかけてくれた。
背中しか見ることのできなかった人と正面から話ができる。
そのことが、純粋にうれしい。
本当に本当に、今更だけどこの瞬間が夢のようだ。


「そ・・・・んな、こと、ないです・・・・よ?」

「ふーん、そうか?」

「はいっ」

「コイツ、すっげぇ人見知りなんすよ」

「じゅっ、準太!?」


突然準太が私の頭の上に腕を置き、体重をかけてきた。
そのことに驚きながら私はなんとかどけようとするがびくともしなかった。
野球部の人ってどうしてこう急に出てくる人ばっかなのかな!


もう十分利央くんをいじり終わったんだろう準太は少しスッキリしたような顔で
にっこりと笑うと私の頭をぐりぐりと撫でた。
・・・・・・・・犬の気分再び。


「なんで、最初の方とか全く喋れないと思うんで・・・・。
 皆どんどんコイツに話しかけてやってください」

『了解(っす)!』

「えっ!?」

「何がえ!?だ。
 オレはお前の人見知りを直そうとしてんだからな!!
 ちったぁ感謝してみろよ!」


感謝!?無理!一方的すぎていろいろ重いです準太くん!!
なんて言葉に出したら仕返しが待っていそうだから口には出さないけれど。
どれだけ私が恥をかくと思ってるんだろう。
確かに直ればいいなとは思うけれど・・・・。
でも・・・・。


私が下を向いてグルグル考えてると急にチャイムがなった。
どうやら昼休みも終わりらしい。長かったような、短かったような・・・・。
皆がぞろぞろと立ち上がるのでそれに習ってわたしも急いで立ち上がった。
スカート汚れてないかな?


「よーし、じゃぁ昼からも頑張りますか」

「うぃー」

「じゃぁね、さん」

「またな」

「今度部活みに来てくださいねー!」


皆通り過ぎるときに絶対に何か一言言ってくれる。
それに対してぎこちなく笑うことしかできない自分が恥ずかしかった。
どうして私は、こうも人の親切心を無駄にすることだけは得意なのだろうか。


皆が出て行った後、屋上には私と準太だけが残った。
さっきまでの賑やかさが嘘みたいで少し寂しい。
この時初めて自覚したが、あの空間は私にとって不思議と楽しめるものだったのだ。
どうしようどうしよう。
上手く話せないし、碌に目も合わせられない。
思いながらも、少しでも自分が彼らの輪に入れたことが、たまらなく嬉しかった。


「で、どうよ、野球部の人たちは」

「うん、いいね」


静かに呟いて彼らが出ていった扉を見つめる。
私はもう一度「いいね」と口にした。
今度ははっきりと、準太にもしっかり届くように。


私は笑った。
賑やかなお昼もこれなら悪くないなんて、思いながら。



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