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晴天だけど涼しい風が頬をなでる、そんな今日。


この天気なら準太も少しは静かだろうと思ったら案の定。
けれどパックジュースを持ってるのは相変わらずだ。
いつも思うんだけど、どこにそんなお金があるんだろう?
私だったら確実に金欠になってしまう。


とまぁそんなことはどうでもいい。
それよりも今日は珍しい日だ。
昼休みになったらすぐに準太が私にこう言ってきたのだから。


「なぁ、今日一緒に弁当食おうぜ」


驚きで目を丸くした。
だって普段準太は友達と食べてるし、私も静かな方が好きだから一人で食べているのに。
なんの気まぐれなんだろうと疑問に思ったけれど別に断る理由もない。
私は誘われるがままに準太と一緒に教室を出た。


「ねぇ、どこいくの?」

「ん?屋上」

「えっ・・・・屋上って・・・・人、いそうだよ?」

「大丈夫。いても気になんねぇって」

「私はなるんだよ・・・・準太、私が人見知りなの知ってるくせに」

「なら克服しろ。せっかくのチャンスなんだからな」

「え?チャンス・・・・って?」

「はいはーい、ほら、到着」


私の言葉を無視すると、笑いながら屋上のドアを開けてくれる。
こういうところは紳士というか、気配りができるなぁとつくづく思う。


外にくらべて少し暗かった階段にそこから光がとび出してきて思わず一瞬目を瞑る。
太陽の光がまぶしい。
夏が、近い。


するとその光の中から複数の声が聞こえてきた。
あぁもぉ準太のバカ、人がいるじゃない・・・・。
だから言ったのに、やっぱり、行かないといけないのかな。
振り返ればにっこり笑う準太に何も言葉を返せなかった私はギュッと目をつむると前を見る。
本当はすっごくすっごく嫌だったんだけど私は勇気を振り絞って一歩をふみ出した。
―――のが間違いだったの!!


「あー!準さんやっときた!!遅いっすよ!
 オレもぉ腹減りすぎて死にそー!」

「おー、準太、遅いぞ?」

「すんません和さん、ちょっと色々あったんっす」

「オレはー!?無視なわけ!?」

「利央、うるせーっつーの!」

「何だよ、迅!」

「おいおい、ケンカすんなー?」

「アハハ!慎吾さんこいつらの保護者みたいっすよ?」

「・・・・ゼッテーイヤ」


し、んご・・・・さん・・・・?
その名前が聞こえた瞬間顔を上げる、と、屋上には円を書いて座ってる人たち。


そうして・・・・数えきれないほど目で追ってきた、あの後姿。


「どーこ行くんだコラ」

「ふみゅっ!?」


反射的に逃げようとした私の制服は準太につかまれて、元の場所に引き戻される。
あっけなく片手で投げ出された私は円に急接近してしまったのだ。
うっ・・・・しっ、視線が痛い・・・・。
というか恥ずかしすぎる。
なんて言ったらいいのかなんてわからなくて、顔に熱が集中するのがわかった。
人見知りの本領発揮。
ああ、お願いですから私を見ないでください!


どうしよう、どうしよう。
こういうときって何言ったらいいんだっけ?
『いつも準太がお世話になってます・・・・!』
いや、なんか違う。これじゃぁお母さんになってしまう。
『私ー、っていいますぅー』
何キャラ?そもそも普段からそんな話し方じゃないでしょ、私!!


いつも準太と話してばっかだった私にとって久しぶりの初対面体験だ。
それだけ準太に甘えていたんだね、今までの自分は。
うぇ・・・・どうしよう、顔が、熱い。涙腺が緩む。
なき、そう・・・・。


情けなくうつむいて目をギュッと綴じる。
そうすれば嫌なことから逃れられる気がしていた。
見ないようにすれば、いつの間にか物事は過ぎ去ると、そう思いながら生きてきた。
だから、今回もそうしたのに。


そんなものを吹き飛ばすかのように、あなたが、笑うから・・・・。


「お、準太!この子だろ?お前が前に言ってたあの・・・・」

「ああ、そっか!!準さんが前に言ってたあの・・・・」


慎吾さんの声が聞こえてドキッとする。
顔を上げれば面白そうに笑う慎吾さんがいて、なんだか無性に泣きたくなった。
というか「あの」ってなに?
準太は皆に何を言ったの?
ひょっとしてわたしが慎吾さん好きだってことを・・・・。


「「面白い人(子)」」

「は、ぇ・・・・?」


ビシリとこっちを指差してる慎吾さんと、金髪の子。
うわっ、すごい髪の毛ふわふわ・・・・じゃなくて!!


面白い子・・・・?誰が?私が?
隣の準太を見上げようとすると頭をぐりぐり撫でられたからできなかった。
・・・・・・・・犬の気分。


「そーなんすよ、コイツ本当おもしれーんっすよ」

「へぇ、どこが?」


どうやら皆も何が面白いか聞かされてないらしくきょとんとした表情をしている。
説明してないの・・・・?
いや、しなくてもいいけれど。
しなくてもいいから、お願い、教室に帰らせて・・・・!
私の心臓はもう爆発寸前なのだ。


けどそんなわたしの思いは届かなかったらしく―――というか無視されたんだろう。
準太は私が最も不安になる含んだ笑みをこっちに向けると楽しそうに言った。


「まぁそれは話していけばわかりますよ」


なんてことだろう。
つまりこの人は私に会話しろといってるんだ。
チャンスってこれのこと?
いらないよ、帰りたいよ、恥ずかしいよ!


そんな私にその一言で注目が集まったから、顔を俯かせて爪先を見る。
あぁ、これからどうすればいいんでしょうか?


とりあえず


準太のバカ



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