なぜだか分からないけど


彼女には自分から興味を持ってしまう




Draw The Curtain:04



あんな事があってから既に数日が経っていた。
この数日間、とは大広間や廊下ですれ違ったりはしたけど特に何も無く
僕からも、彼女からも視線を合わせることさえしなかった。
まるでお互いすれ違ったことに気づいていないというように。
あるいはそこに存在していないかのように。



本当は廊下で笑顔で声をかけても良かった。
けどそうしなかったのは僕に計画があるからだ。
僕はその時のを想像して口角を上げると目を細めてたった今すれ違った
彼女の背中を見送った。
それを実行した時、彼女は一体どんな表情をするだろうかと楽しみで仕方が無い。
ほとほと自分は最低な人間だと思うが今更だ。



(さてと、そろそろ授業に行かないとね)



あらかじめ持っていた教科書を持ち直すと、さっきまでの表情を引っ込めて歩き出す。
次の授業は薬学だ。幸い薬学の教室もスリザリン寮と同じ地下にあったが、僕は先生に
呼び出されていたため少し距離があったのだ。
地下に続く階段を下りるにつれて空気が冷たくなっていく。
外は寒いが、地下はまた一段と冷え込んでいる。
こんな地下まで来ればマフラーなしでは生活できないが、薬学の授業にマフラーは危険だ。
この前マフラーをつけていた3年生が誤って鍋の火でマフラーを焼いてしまったという。
自分がそんな失敗をするとは思えないが、つけることはあまりにも愚かな行為だ。



教室に入ればその空気に一瞬何事かと動きを止めてしまったがすぐに理由は分かった。
ああそうか、今日はグリフィンドールと合同か・・・。
お互いがお互いを嫌いあっているせいで教室の真ん中にはキレイに境界線ができていた。
呆れたようにため息を吐いてあえてその境界線の上を歩いて席に着く。



何気なくグリフィンドールの生徒の顔を確認していくが、やはりはきていなかった。
彼女はどの授業でも授業前ギリギリに入ってくると聞いた。
それは多分他人と関わりたくない、人と同じ空間にいたくないせいだろう。
自分の周りに結界を張り、自ら他人を近づけようとしないあからさまな態度・・・。
それが生徒にとっては気に入らないらしく、彼女のことを好きだという人間は今の所
聞いたことも見たこともなかった。



そうして皆、そんな彼女の態度に眉をひそめた後、必ず揃ってこう言うのだ。
“とは大違いだ”と。



僕から言わせればくだらない。
腹違いの姉妹だかなんだか知らないが、二人は立派な他人なのだから違って当たり前だ。
それを他人にどうこう言われる筋合いはないだろう。
むしろ僕にしてみればの方がよっぽど興味深い。
彼女の他人を拒絶する強さは半端じゃない・・・一体どうしてそこまで他人を嫌う?
彼女の身になにがあったというんだ?



問い詰めたいことは山ほどあった。
腹違いの姉妹が入れ違いで転入してきた理由もそのうちの一つだ。
なぜは4年生になるまでホグワーツに入学できなかったのか・・・逆に言えば
なぜ4年生から入学することができたのか・・・不思議でたまらない。
ディペットの校長は何を知っているんだ?



考えれば考えるほど分からなくなった時、教室のドアが開いた。
皆は一瞬静かになった後すぐに各々雑談に戻る。
が入ってきたのだということは見なくても分かった。
と、そんな時すぐに先生も入ってきてすぐに授業は始まった。
どうやら今日は2人1組となって作業をするらしく、教室内ではもう既に大抵の生徒が
ペアを組み終えている。



さてと、僕もそろそろ・・・・・・。



「トーム!今日は私と組みましょう?」

「ああ、Msクリス気持ちはありがたいんだけど今日はもう先約があるんだ」



近づいていた女子にも聞こえるように言う。
勿論ちゃんと残念そうな表情もつけて、だ。
そんな言葉は予想外だったのか彼女達は目を丸くして誰だとお互いの顔を見る。
しかし心当たりは無いようだと判断すると、表情で誰なのだと訊ねてきた。
内心ため息をつきながら名前を挙げると、途端に教室が静まり返る。
男子も女子も、今自分が聞いたのは何かの間違いではないかと疑っているようだ。



「え、トム?もう一回言ってもらえるかしら?」

「だから、今日は先約があるからペアを組めないって・・・」

「そうじゃなくて!その後よ!・・・今・・・誰と組むって言ったの・・・?」

「」



ダンッ!!と大きな音が上がったほうを見ると、静かな怒りの炎を宿した瞳で
こちらをみていると目が合った。
表情が、何のつもりだと言っている。
そんな彼女を見て僕はまた目を細めた。



(言ったじゃないか。僕からは逃げられない、って)



話しかけるだけなら、人が多い廊下や大広間でもよかった。
でもあえてこの授業を選んだ理由はを逃げられないような状況に追い込み
そうしてどうしても確かめておきたいことがあったから。
それを確かめるこの方法に自信はあった。
彼女はあっさりと僕の問いかけに答えるだろうという確信がどこからか湧いてきている。



「ふざけないでよ、あんた・・・」



依然睨みつけてくる彼女を無視して歩み寄るといっそう視線が鋭くなった。
彼女のも、周りのも・・・だ。
距離が限りなく近くなると見上げてくる彼女の耳元に顔を持っていき、そっと囁く。



「反論なんか出来ると思ってるの?
 組まないんだったら・・・"あの事"皆に言うよ?」



ゆっくりと顔を戻し表情を見ればあまりに予想通りで笑いがこみ上げてくる。
彼女は、不安と怒りが入り混じったような表情で僕をみている。
きっと頭の中は大混乱だろうことは容易に分かる。
やがて彼女は悔しそうに唇を噛むと小さく「わかった」と吐き出した。



(やっぱり、ね)



自分の小さな勝利を手にしながら僕は満足感を隠すことなく笑う。
他人から見れば普通の、しかし彼女から見れば憎くて仕方の無い笑顔。


「すみません。どうやらが約束を忘れていたみたいで・・・
 ね?そうだよね、・・・・・・」

「っ、あ、はい・・・すみません、でした」



鋭く睨みあげてくる彼女を笑顔で避けるとまた悔しそうに唇をかむのだ。
そんなに噛んだら血が出るよとは言わない。
言えばまた怒りを買うのは明らかだからだ。



僕は、ああ、と思い出したように彼女に向き直ると他人には聞こえないような
小声で呟き、に微笑む。



「久しぶりだね、」



僕は面白くてたまらなくて、これからのことが楽しみで仕方が無かったんだ。



その時は・・・・・・。