自分でも驚くぐらい君のことを考えてる


不愉快でならないさ




Draw The Curtain:02



(また朝が来た)



それは当然のことなのに、時々なぜか無性に朝が嫌になって頭が痛くなる時がある。
今日はまさにその日だった。
理由を問われれば説明はできないが・・・こういう日は大抵碌なことがない。
体が休息を訴え、寝てしまえと言われている気がした。
けど僕は自分に鞭打って、のろのろとベッドから出る。


顔を洗って前髪を上げると鏡に映った自分が目に入る。
・・・・・・紅い、瞳・・・忌々しい、こんな瞳、いるもんか。
この瞳の色で得をしたことなんか何一つだってありはしないのだ。
他人と違うのに他人と同じ、いやそれ以下なんて笑えるじゃないか。
僕は鏡の中の自分を睨んで逃げるように洗面所を出た。


瞳から逃れれば後は昨日の女子生徒のことが頭を占めた。
あの態度は誰がどう見たって不自然極まりない。
普通の女なら赤面してもおかしくないというのに彼女は眉をひそめ嫌悪感を丸出しにした。



まさか見抜かれたか?僕の演技が・・・。
ありえない。
けどそれ以外考えられなかった。
まぁどっちにしろ・・・・・・確かめれば分かることだと僕は一人唇に笑みを浮かべる。




そして急ぐわけでもなく、けど他の人よりは速いスピードで支度を済ませると談話室に降りる。
ちょっと早い朝食を取るために大広間に行くのだ。
朝早くなのでいつも大広間に居る生徒は少なく、廊下は人がいないと錯覚するほど静かだ。



僕はこの時間が好きだった。



それは静かな大広間でゆっくり朝食がとれるから。
普段居るような煩い女子達もいないし、邪魔をされることも少ない。
ああなんて素晴らしい時間なんだろう。



でもたまに・・・



本当にたまにだけど・・・・・・



「トーム、おはよう!」



談話室で僕を待ちかまえている女子が居る。
この時の僕の気持ちときたら、一体どう表現すれば伝わるというのか・・・。
頬が引きつるような感覚を我慢しながらも、笑顔で対応する自分は本当に凄いと思う。
だれか拍手でもしてやってくれ・・・でないと僕が報われない。



「やぁ。おはよう、Msクリス」

「おはよう。トムったら起きるの早いのね。私なんかまだ少し眠くって・・・・・・
 ねぇ一緒に朝食でもどう?もう席はとってあるのよ!」

「嬉しいよ。ぜひご一緒しようかな」

「そう、じゃぁ行きましょう」




何が“嬉しいよ”だ、欠片も思っていないくせによく言えたものだ。
というか眠いなら寝ろよ。
大体僕が起きるのが早くても君には何も関係ないだろう?
そう思いながらもそんなことはおくびにも出さない。



本当にめんどくさい。
下手に断ってもどうせ大広間で会うのだから無駄だろう。
朝食を取り終わって詰め寄られるのも気分が悪くなる・・・・・・。
諦めて僕は小さくため息をつくとその女子と大広間に向かった。



自分の好きな時間を犯された事に小さく舌打ちをしながら・・・。















大広間への道を女子と歩く。
甘えるように腕に絡み付いてくるのがまた僕の機嫌を悪くさせる。
いっそこの女の腕を切ってやろうかとも考えたが思いとどまった。
今ここで問題を起こすわけにはいかない。



大広間はいつも通り生徒が少なく小さな話し声と
食器が当たるカチャカチャという音だけが響いていた。
その音を聞きながら女子に引っ張られて席に着くと周りは見事に男子生徒ばかり。



さすが狡猾スリザリン。
同寮ながら感心するよ。
つまり周りを男子でうめれば後から来た他の女子は僕に近づけない訳だ。
まったく・・・こんなことに頭を使うぐらいならもっと別のことに使えばいいのに。



食事中は僕にとって地獄としか言いようがなかった。
つまらない会話、ふれあい、紅茶の香りをもかき消すほどのキツイ香水・・・反吐が出る。
何を話したかすら僕の頭には残っていなのに
何でこうも女子っていう生き物は壊れたように喋り続けるんだろう。
イライラとしながら紅茶を飲むけど一向に治まる気配はなく
むしろ時間がたつにつれて人も多くなるしとイライラは募っていった。



ほらみろ、やっぱり碌なことがない。



それでも飲み下すように朝食を食べ終わり紅茶を飲んでいると、ふと
広間に入ってくる女子生徒が目に付いた。



「あれは・・・・・・」



それは間違いなく昨日の女子生徒だった。
赤と金色のネクタイをつけているから、どうやらグリフィンドールらしい。
似合わない・・・昨日の印象ではどちらかといえば彼女はスリザリンの印象の方が強かった。
彼女が勇気を持ち、勇猛果敢だと?何の冗談だ。
全てを自分から切り離し、にこりとも笑わないその姿は他人と壁を作っているとしか言えない。
みるところ友達も居なさそうだ。



観察するかのように彼女を見ていると、存在も忘れていた横の女子がローブを引っ張った。
危ない。
舌打ちをしてしまうところだった・・・・・・。



「ん、どうしたんだい?」

「もぉ!それはこっちの台詞よ。どーしたの?ぼーっとして」



関係ないだろ。
君にはぼーっとしてるように見えてもこっちはちゃんと考えているんだよ。
むしろぼーっとしてるのは君の頭なんじゃないのかい?
なんて次々と頭に浮かんでくるのは文句ばかりだ。
ああ駄目だ・・・・・・やっぱりイライラしてしまう。



「いいや何でもないよ。それよりMsクリス」

「何?」

「扉の所に居る女子生徒を知っているかい?
 ほらあの右耳に紅いピアスをつけてる・・・」

「ピアス?・・・・・・あぁ、よ。。
 トム覚えてないの?」

「?」



どこかで聞いたこと・・・・・・あるような。



「えぇ。ほら、今学期が始まるときに転入してきたじゃない
 4年からだなんて珍しいから色々噂になったわ」



なるほど、だから聞いたことがあったのか。
確かに一時期噂になった気もするが、特別興味もなかったし使えそうでもなかったので
すっかり存在を忘れていた。
僕は納得したように声を出す。



「あぁ、と入れ違いに入ってきた・・・・・・」

「そう。なんでも腹違いの姉妹らしいわ
 友達が本人から聞いたことだから間違いはなさそうよ
 だからに似てるのね」

「ふーん・・・ちなみに彼女成績はいいの?」

「いいえ全く!!特に魔法なんか話にもならないわ
 本当に、性格も頭もとは真逆よ
 彼女の方がよっぽど好きね、わたしは」

「は成績もよかったし明るかったからね」

「ええ・・・彼女がどうかしたの?」

「いや、別に・・・何もないさ」



そう言って会話を切り上げると紅茶を飲む。
さっきまで熱かった紅茶が少しぬるくなっていて気持ち悪かった。
この女、うざいと思っていたけど意外と使えるじゃないか。



・・・・・・と入れ違って転入してきた生徒か・・・。



僕は視線を鋭くして彼女を見た。
僕の中では、明るく活発。見るたびに笑顔で、成績も優秀だった。
だがは見た感じ本当にそれとは真逆なのだ。
姉妹でもここまで性格が違うとむしろ別物に思えてくる。
まぁ異母姉妹らしいので性格が違うなんてことはありえないことではないか・・・。



そんなことよりも僕がひっかかるのは彼女が成績が悪いという点だ。



Ms.クリスが正しいならば彼女は成績が悪く、呪文なんて以ての外のはず。
ではなぜ昨日あの場所に居たんだ?
あんな高度な本を手に取ったって彼女に理解できる代物じゃない。
あの本は最高学年の生徒でも理解できるか怪しいものだ。



それなのに彼女が・・・・・・?



賢く見せたかったというのはどうだ。
だが友達も居なさそうな彼女に見せ付ける相手なんて居るだろうか?
あともう一つ疑問なのは姉妹で入れ違いに転入してきたことだ。
僕ははぁとため息をつくと視線をティカップに戻した。
頭が痛くなりそうだ。



ここで一人で考えていたって仕方が無いのは分かっている。
いくら僕でも分からないものは分からないし、推測は所詮推測でしかないのだ。
ああくそっ・・・これはやっぱり直接本人に聞くべきだろう。



僕はぬるくなった紅茶を飲み干す。



まぁこれで・・・・・・しばらくは退屈しなさそうだ。
心のどこかで今後のことを考え楽しそうに笑っている自分がいた。