たくさんいる生徒の中で


君はある意味特別な存在だった




Draw The Curtain:01




「トーム!今日私のレポート見てくれない?」

「ねぇトム!今度一緒にホグズミートに行きましょう!!」

「何言ってるの!?私がトムと行くのよ!」

「えー、トムは誰と行きたいの?」



そう聞かれて僕は読んでいた本を閉じて苦笑した。
もちろんそれは表面上・・・内心はめんどくさいという気持ちで一杯だった。
誰と行きたいかだって?
愚問だ。
そんなもの、誰とも行きたくないに決まっている。



「ごめん。僕その日先生に呼ばれてて行けないんだ・・・・・・」



本心を顔に出すようなヘマはしない。
僕はいつも通り気持ちを隠すと、“優しい僕”を演じてみせる。
もう一度苦笑して「ごめんね」と謝ればしぶしぶ諦める女子生徒たち。
それらから視線を本に戻すと分からないように失笑した。



くだらない。



本当に馬鹿なやつら。
よく考えれば、そんな風に生徒の楽しみを奪うような教員なんか居ないと分かるだろうに。
どうして考えるということをやめてしまうのか・・・。
僕自体は別に寮にこだわっているわけでもないが、こんな光景を目の当たりにすれば
少しはスリザリンの名に恥じることない行動をしろと思ってしまう。



女子生徒の話題はもう他に移ってしまったのか、今は楽しそうに笑いながら自分達だけで行く
ホグズミートの計画をたてるのにすっかり夢中になっていた。
横目でそれを確認すると僕はいよいよ無表情になる。



本当にくだらない。




笑顔で話せば寄ってくる生徒達も
優等生を演じていれば騙される先生達も



みんなみんなくだらない。



成績は常にトップだった。
どんな呪文も調合も失敗した事がないし、他人からの信頼もあった。
誰よりも高位にいるはずだと思っていたし、事実その通りだ。



でも満たされた事はなかった。
いつも心の中は冷めていて、他人の世辞や賛辞なんか耳に入ってすらいない。
優秀なんか、信頼なんかクソ食らえ。
何度もそう思って耳に入らなかった言葉達をゴミ箱に捨てた。



退屈すぎるこの世界・・・毎日毎日、朝が来ることが億劫でならない・・・・・・。
誰か僕を楽しませてよ。
そう思っては無理だとさっさと諦めてまた他人と壁を作る。
だって仕方ないだろう?
この低俗で無能なやつ等の中のどこにそんな人間がいるというんだ。
心当たりがあるのならば今すぐ僕に教えて欲しいね。



今まで独りで生きてきた。
泣きそうな夜も、狂いそうな朝も・・・たった独りで・・・。
だからこれからだってそうして生きていくつもりだ。



孤児院に居た時もそうだ。
壊れ物を扱うかのように優しく接してくるシスター達。
子供だと思って気を抜いていたんだろうが僕にははっきりと分かっていた。
あの時、確かに僕を写す目に恐怖があった事を。
そしてそれは他の子供達だって例外ではない。



その視線を背に受けながら何度か思ったことがある。
そんなに邪魔ならなぜ殺してくれないのかと。
どうせ悲しむ人間なんかいないというのに・・・・・・。



小さな頃は何で僕だけがと思った事もあった。
こんな変な力なんか要らないと。



独りが嫌だと。



だけど成長するにつれてその気持ちは薄れていって、見当たらなくなってしまった。
今はむしろ感謝しているぐらいだ。
これでマグルを・・・・・・必要のない人間を消せる。
世界は僕のものになるんだ。
















女子達に笑顔でレポートがあることを告げ別れた。
そろそろ強い香水の匂いで頭と鼻がおかしくなりそうだった。
あいつ等の声はマンドレイクよりも強烈だと僕は思う。
耳に残る煩わしい声を払うかのように頭を少し振ると、新鮮な空気を肺一杯に吸い込む。
予想以上に、廊下の空気は冷たかった。



もちろんレポートなんて嘘だ。
そんなものは課題を出されたその日に終わっている。
僕は足取りも軽く図書室へ向かう。



図書室の中に入れば、いつものように静かな空気が僕を包む。
ぽつりぽつりとしか生徒は居ないが、珍しい光景ではない。
大抵の生徒はレポートの締め切り寸前かテスト前にしか来ないからだ。
来るといったらもう決まったメンバーとなっているだろう。



静かな空間にはカツカツという僕の乾いた硬い足音と
ペラペラと誰かがページをめくる音だけが響いていた。



(確かここらへんだったと・・・)



かなり高度な本が並ぶ所まで来て目的の本を探す。
こんな高度な本を読む生徒は少ない・・・というより居ないのだろう。
その証拠に本も本棚にも薄く埃が積もっている。



(あっ、あった・・・・・・)



目的の本を見つけた僕は取ろうと手を伸ばす。
と・・・そこにもう一本別の方向から伸びた腕があった。
まさかここに生徒が居るだなんて思わなくて・・・驚きを隠せなかった僕は
思わず横を向くと目を見開いた。
そこには同じく丸い目をしてこっちを向いている女子生徒が居た。



茶髪のショートカットに青味がかった目
右耳には丸い小さな紅いピアスが目立つ



誰・・・だ、この女子生徒は・・・・・・。



しばらく無言で見詰め合っていたけど、我に返り動くのは僕の方が早かった。



「君もこれを読むの?僕は後でいいから先にどうぞ」



いつものように笑顔で女子生徒に向かって言う。
内心は舌打ちをしていたがそんな事、顔には一切出さないで・・・。
そうすればここで女子生徒が顔を赤くしてお礼を言ってどこかに行く。



そのはずだった。



だがその女子生徒は一瞬眉をひそめたと思ったら、嫌悪感を隠す気もない様子で
気持ち、僕から距離をとったように思う。
その後は、無言で奪うように本を取ると早足で本棚を曲がって見えなくなってしまった。



残された僕は突然のことに不覚ながら動くこともできずに、しばらく女子生徒が消えた
本棚の方を呆然と見続けていたのだった。
予想が外れた・・・?そんなバカな・・・。
今まで一度もあんな反応を返されたことはなかったというのに、なんだというんだ。


前に何かあったというのならわかる。
だか間違いなく彼女と僕は初対面だ。
好意を寄せられることはあろうとも、いきなり嫌われることなんかありえない話。
しかもあんなあからさまに・・・・・・。



わけが分からない。
なんであんな顔をされたのかが・・・・・・あそこまで嫌われる理由が、僕にはないのだ。



そういえば驚きのあまりネクタイを見ることすら忘れていた。
どこの寮だかは分からないが、少なくともスリザリンではなさそうだ。
スリザリンの人間の顔なら全員覚えている。



興味がわいた。



理由を問い詰めてみたいという好奇心が心の底の方からわいてくる。
ああ、久しぶりだ・・・こんなに他人に興味を覚えたのは。
僕は笑いそうになるのを堪えると、顔を手で覆いながら本棚にもたれた。



彼女が去った後に残ったのは・・・少し舞った埃と、僕の好奇心。
楽しくなりそうだと、明日に少し期待をした。



後々、彼女に出会ったことを後悔する日が来るだなんて、想像もせずに。