休日の部活ほど疲れるものは無い。
折角の休みだというのに早起きをして部活に行き、一日中練習をした後くたくたになって帰宅する。
こうしている間に休日はあっという間に終わりまた学校が始まる。
休日って何だ。
最近はようやく慣れてきたもののやはり腹は減るし疲れるものは疲れるのだ。
「阿部。皆で帰りどっか寄って食ってこうかって話してんだけどどーする?」
だからその栄口の言葉はとても魅力的だったように思う。
でも俺はその事に断りを入れた。
理由はしたいことがあったから。
多分栄口たちは沈んでいる俺のことを思って誘ってくれたんだろう・・・・。
それを断るなんていくら俺でも罪悪感があったが、今日はしかたが無い。
さっさと着替えを済まし、もう一度だけ謝罪を入れると俺はそそくさと部室を後にする。
外は暗く、星がきれいだった。
俺が自転車置き場に着くとどこからかスッとがでてきて困ったように笑った。
「一緒に行ってくればよかったのに、ご飯。」
「いや、大丈夫だって。俺はお前と一緒にいる。」
残り4日しかないのだ。と居られる時間は・・・・4日しか・・・・。
それが終れば会うことができない。
どんなに叫びだしたい時も、声を聞きたい時も、顔を見たいときも・・・・。
笑って欲しい時も。
無理なんだ、あと4日で。
俺が目にするのは動かないお前の写真だけ。
だから
だから
「俺はと一緒なら幸せだっつってんだよ。お前は自分が消えるかもしれないのに戻ってきてくれた。
なら、俺はその時間を大切にしてお前と過ごしたい。言うの遅くなったけど・・・・。
戻ってきてくれてありがとな。嬉しいよ、本当に。」
照れたように笑うが愛おしくて、抱きしめたかった。
でも思いとどまったためポケットにつっこんだ手はそのまま動くことは無い。
を抱きしめることは、なかった。
こんなに近くに居るのに触れられない。
手を伸ばしても届くのに触れられない。
体温を、息遣いを、鼓動を感じられない。
こんな現実は、本当に喜ばしいことなのか?
「っ・・・・」
考えを振り切るように前を向き自転車を出す。
そうして自分がそれにまたがると、後ろを叩いてなんてことは無いという風に言った。
「ほら、乗れよ」
「えっ・・・・・・・・?」
「“えっ”じゃなくて乗れって言ってんだよ。ああ?お前には耳がねぇのか」
「あるに決まってるでしょ!じゃなくて、乗れって・・・・どういう・・・・」
「言葉通りだけど?俺がこいで、お前はつかまる」
「だけど・・・・あたし、その・・・・」
「乗れって、いいから」
強く、真剣に、を見ながらそういえば、は一瞬言葉を詰まらせた後歩き出す。
怖がるようにゆっくりと自転車の後ろに乗ると俺にすっと手を回す。
俺はゆっくり目を閉じる。
「じゃぁ行くか」
「って・・・・どこに?」
「心残りみつけねーとな。町内見学ツアーだ!!おら、出発!」
戸惑うに笑いかけながら自転車をこいだ。
二人乗せているとは思えないほど、自転車はすいすい進んでいく。
もう少し重たそうにしろよなお前・・・・と無理なことを自転車に思ったりして。
でも、そう思わずにはいられないんだ。
「お、今日は軽いから自転車が進むな」
「ちょ、それどういう意味!?」
「別に?ただお前が生まれ変わったらダイエットしろよって話だよ」
心地よい会話のリズム。
進む自転車。
昼間より冷たい風。
それらがすべて、今自分がここにいるのだと証明している様な気がして。
それでも、これを、これらを、キミも感じているだろうか?
空にはやっぱり無数の星が輝いていて、この下にいる自分はなんてちっぽけなんだと
普段考えもしないようならしくないことを思って涙が出そうになった。
自分のこの今の気持ちすらちっぽけだといいそうな星空が憎く、また羨ましい。
はどこをみているんだろう。
後ろを振り返って聞く気にはなれない。
あまりにも実感の無い、回された腕。
振り返るのが、怖かった。
後ろに乗っているはずのがいなかったらと、わずかにも思ってしまうのだ。
そんなときふと視線を下にずらせば、白く細いの手が見えて・・・・ああ、いるのだと。
思わず安堵の息が漏れそうになる・・・・弱い俺。
「初デートの場所はここだったねー」
「ああ、そうそう、この喫茶店な」
「なんでしょっぱなから喫茶店はいったのか・・・・謎すぎるんだけど」
「それはお前がのど渇いたって言うからだろ」
「そうだっけ?」
「そう」
「いや、暑かったしね、あの時。やたら手に汗かいた」
「はは、暑かったからな」
違う。そのせいだけじゃなかった。
初めて二人で出かけて、多少なりとも緊張はしていた。
喫茶店に入るとき、仕方ないなといいつつも自分ののどだって渇いていたのだ。
少し落ち着いて余裕が出てきたのは、注文した飲み物を飲んだ後だったように思う。
「あ、あのCDショップ通ったよねー」
「お前はCD買いすぎなんだよ」
「違う違う、あたしの好きなアーティストが新曲出しすぎなんだって」
その後も次々と思い出がよみがえってくる。
自転車をこぎながら、そういえばこんなこともあった、こんな場所も行ったなんて
普通の恋人同士みたいな会話をして、笑いあう。
店だけじゃない。
道にも、草花にも、その時の風景がしみこんでいる気がしてならない。
あの木はまた来年の春には桜が咲くんだろうか。
そんな些細なことまで話し合って、来年を思い浮かべる。
なんでそこにあたしはいないんだろうと、が小さく呟いたのが聞こえて
また、泣きそうになった。それは俺だけじゃないだろう。
部活の後だというのに体は軽く、自転車をこぐのはさほど苦ではなかった。
ただ時々の回してくる腕に力が入るような気がして。
そんな時は、決まって俺もハンドルを強く握るのだ。
俺は・・・・は・・・・今どんな顔をしているんだろうかなんて思いながら・・・・。
「あー、ここは・・・・」
「初めてキスした場所ー」
「夜だし人がいなかったのをいいことに河川敷のど真ん中でな」
「いやあの頃は若かった・・・・若気の至りだよ」
「そんな時間経ってねぇくせに、よく言う」
そこで自転車をとめるとが降りた。
俺もそれに続き自転車を降りると土手に座り込んだ。
目の前でが思い切り走り回っているのを見て思わず笑ってしまう。
幽霊になってもあいつは変わらない・・・・。
生きていた頃のように動き、はしゃぎ、そうして・・・・。
「うわっ!?」
こける。
「バーカ!!なにやってんだよ!!」
「彼氏なら駆け寄って優しく手を差し伸べんかーい!!!!」
大声で言えば返ってくるのもまた大声。
その言葉に笑いながらも駆け寄ることはせず、逆に嫌なこったと手をひらひらと降った。
「優しくないやつめ」
「今更」
呟くに肩をすくめて見せれば不機嫌そうな顔でこっちに近づき、すぐ隣に腰を下ろした。
俺はそれと同時に寝転がり、星空を見る。
しばらくその場は静かで、どちらも言葉を発しなかった。
上の道を、おじさんが自転車で通る。
ちょっとだけ見られた。
そのおじさんが通り過ぎた後、人がいないことを軽く確認して口を開く。
「心残り・・・・どうだった?」
するとは小さな声で、まだ残ってる、と言うのだ。
「厄介ごともってきてごめんね。でもねーやっぱあたしは隆也のこと愛してるんですよ。
だからさ・・・・これが最後の迷惑だから、もう少し付き合ってやって」
「これが迷惑ってんなら、いつまでも付き合ってやるよ」
「あはは、相変わらずなお言葉で。・・・・・・・・ヒント。うん、そうだ、ヒントね。あげる。
あたしとの会話の中に、答えがあるかもしれないよ。あたしうっかりしてるから・・・・
キーワードとか喋っちゃってるかも。あるいは喋っちゃうかも」
「答え・・・・ねぇ。お前との会話覚えとかないとだな」
「まぁあと4日もあるし、頑張ってよ」
「おー・・・・・・」
4日もある・・・・か。俺にとっては4日しかないんだけど・・・・。
そこで体を起こしてをじっとみる。
不思議そうな顔でこっちをみてくるに向かって、強く、決意の様に言葉を発する。
「俺、本当にお前のこと好きだから・・・・消させたりなんかしない。
お前を無かったことになんかしないからな。だから、もう少し待ってくれ」
「・・・・・・・っ!あたしの心残り、・・・・ホントはね、すごくくだらないの。
こんなことのために、戻ってきたのかって・・・・隆也が笑いたくなっちゃうぐらい。
すごく小さくて、くだらないことなの。きっとわかったらがっかりするよ。
これだけのために俺はあんなにも必死だったのかって。本当、あたし、ばかみたいで・・・・っ」
「どんなに小さいことでも、くだらないことでも、バカにしたりしない。約束する。
だって、戻ってくるほど大切なことだったんだろ、お前にとって」
「・・・・うん」
「だったら、バカにしない。俺は今日みたいに必死になる。
だから笑え。お前が泣きそうな顔すると調子が狂う」
「・・・・うん」
やっと笑ったとならんで、また星空を見上げた。
「ありがとう、隆也」
そう言ったの声が本当に嬉しそうだったのは、なぜだか凄く印象的だった。
本当は
4日もあるだなんて嘘で
4日しかないんだと
心が押しつぶされるような不安に襲われた
それでも
あなたが隣で笑うから
あたしはまた
あなたの隣で笑えるんだ
ごめんね
ありがとう
4day→
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