夢が醒め、そうして現実が現れる でもオレにとって、その現実こそが夢
The second day

(結局どこにいたって地に足がつかないんだ)






朝起きて、窓から差し込む光に目を細めた
あまりにも静かすぎる朝・・・しばらくその静けさの中にいると
まるで全ての出来事がなかったんじゃないのかという考えが浮かんできた
例えば・・・・・・・・・そうだな
あの悲惨な事故の事だとか
それによって失った大切なものだとか
失ったはずのものが何故か目の前に現れたこととか
そういったこと



「・・・・・・?」



返ってこない返事に戸惑いながら頭を抱える
昨日のあれは何だったんだと、考えれば考えるほどわけが分からなかった
オレが都合よく作り上げた幻覚・・・・・なんだろうか
現にこの部屋にはオレしかいない



最悪な気分だ、とオレは頭を抱えて叫びそうになるのを我慢する
昨日の事があまりにもリアル過ぎて、まるで・・・
そう、まるで、あいつを二回も失ったかの、ような・・・・・・



(ヤベ、吐きそう・・・)



嫌な想像をしてしまい思わず口を手で覆うと、自身を落ち着かせるようにゆっくりと息を吐き出した
瞼を閉じれば暗闇から鮮血の赤が浮き出てきて離れない
そうしてオレの記憶の嫌な部分を引きずり出そうとはいずり回るのだ
いっそこの脳みそがなくなれば楽になれるんだろうかと考えて、自嘲した
―――そんなのもうオレじゃない



例えオレがどんな状態でも時間は無情にも進むものだ
時計を見ればそろそろ出ないと朝練に間に合わないような時間だったので、オレは急ぐわけでもなく
のろのろと準備を済ますと朝食も食べずに玄関に向かう
家族が心配そうな顔をしてきたのが分かったが、無視して家を出た



そうして目を見開いて固まってしまう



「や。おはよ」

「・・・・・・」



夢じゃ・・・なかった・・・・・・?
思わず目をこすってみたがそこにはちゃんとがいて・・・
ああ、幻じゃないのだと、そう思った瞬間妙に泣きたくなった



「おま・・・なんで、なんで部屋にいなかったんだよ」

「ん?一応部屋ってプライバシーの塊だから・・・
 勝手にお邪魔すんのも失礼かなーと思ってね
 だから外で待ってた!
 ・・・って、あれ?どーしたー?隆也ー。何で泣きそうな顔してんの?」

「っ!っとにお前は・・・このバカ!!!」

「な!?バカって・・・!!なにそれ!」

「こっちがどれだけ心配したと思ってんだ!
 いいから、部屋にいてくれていいから・・・だから・・・」



言葉がつまる
俯いて握り締めた手が痛かったけど、かまわずにまたきつく握った
もうどこにも行かないでくれ、なんて、言えなかった



言えるはずが、なかった



オレの言葉の続きを察したのか、は自分の髪を撫でて笑った
「じゃぁお邪魔させてもらおうかな」というと、オレに背を向ける



「ほら、隆也!学校行くよ!副部長が遅刻すんなー!」

「うるせぇ!誰のせいだと思ってんだ!」

「たーかーやー!」



そんな風に無邪気に笑うが眩しくて、思わずオレも笑顔になる
そうだ、前もこうやってつられて笑うことが多かったな
あいつが笑うからオレも笑うんだ
多分がいなければオレは笑う回数が今の半分以下になっていただろう
なんて・・・・・・依存しすぎか、オレは



もうあの吐き気はなく、肺に入る空気は爽やかで気持ちがいい
コンビニにでも寄って朝飯でも買っていこう
オレは頭をふるとの背中を追うように自転車をこぎ始めた















朝練も済ませて教室に行くと、クラスのやつらの視線が痛くてたまらない
こんな視線は一体何日経ったらオレから逸れるというのか
そんな事を考えてうんざりした。やめておこう、めんどくさい



オレの横に付くようにいるはやっぱり他人には見えないらしく、誰も騒ぐ人間がいない
で、何が面白いのか知らないがさっきからにこにこと笑っている
席について荷物を下ろしたオレは、周りに気づかれないような小声でに言う



「おい、お前笑いすぎ」

「ごめんごめん。だってさ、またこの教室に来て皆に会えるなんて思ってなかったからさ
 なーんか嬉しくって!
 ・・・・・・いいなぁ、教室」

「・・・・・・・・・」



何も、言えなかった



悲しみに濡れた目で、それでも尚幸せそうに教室中を見渡すに
声をかけてやることができなかった、役立たずな彼氏
悔しくて苦しくて、やっぱりまた手を強く握った



それでも、一番苦しいのはだから



オレは静かに握り拳を解く
そのときタイミングよくかけられた声に驚いて振り向けば
花井と水谷がこっちに向かって歩いてくるところだった
隣にいたがまた嬉しそうに笑ったのが分かった



「阿部、大丈夫か?さっき手ぇ握り締めてたけど」

「ん?あ、あぁ、大丈夫だ。何でもねぇよ」



よく見てるやつ、と純粋に感心してしまう
オレだったら絶対に気づかない自信があるからだ
まぁ今のオレはかわいそうな人間だから、見てしまうのも分からないことはない
こういう面倒見のよさが部内でも人気の理由だろう



「そうそう、今日部活ミーティングだってさ
 阿部でて来れるー?」

「それ聞くのかよ。行くに決まってんだろクソレ
 オレだけ特別扱いとか気持ちワリィんだよ」

「ほらみてみろ、だから言っただろ
 阿部はぜってぇこういうんだって」

「うーん、でもなぁ・・・・・・」



心配そうに眉間にしわを寄せる水谷に思わず笑いそうになってしまう
まさかこんなあからさまに心配されるだなんて思ってもなかった



オレ的には今はこっちの方が気が楽でいい
遠巻きに同情されるよりも、水谷のような直球の方が受け止められる
昨日は、あんなに投げやりだったのに
やっぱりが帰ってきたから、少しだけ余裕ができたって事か



普段ならぜってぇいわねぇけど



でもまぁ、今日ぐらいいいか



「水谷、花井」

「ん?」

「何?」

「・・・・・・サンキュな」



分かっている、キャラじゃないって事ぐらい
だけど、目を丸くする二人の顔は携帯でとってやりたいぐらい面白かった
この顔をも見ているだろうかと思い横を向く



「・・・・・・え?」



するとそこにはさっきまでいたの姿はなかった
一瞬で頭が真っ白になる

パニック

ヤバイ

どこに、行ったんだ?



「隆也ー!!見て見て!これマジ奇跡!ビックリ人間だよ!!」



オレの気なんか知ったこっちゃないという風に、何も考えていないような
の無邪気な声が二人の方から聞こえてきた
考えるよりも先に体が動いて、慌てて声のした方に顔を向けて・・・



「ブッ・・・!?」



噴いた



「え、なに!?どーした阿部!オレなんかしたか!?」

「や、ちょ、喋んな、頼むから・・・ククッ・・・」

「ねー、凄いでしょ!幽霊なめんなよ!」



そう誇らしげに胸を張るを見ていると、また笑えてきた
やばい、笑いが込み上げてきて抑えられない



簡単に言えば、が花井の腹から顔を出していたのだ
勿論食い破るとかそんなのではなく・・・通り抜けられるんだろう
は楽しそうに顔を出したり引っ込めたりしている



「ククッ、お前、不気味すぎんだよ・・・」

「花井不気味だってー」

「お、オレか!?」



見えないって事はかわいそうだな
でも実際花井がこれを見ていたならショックで気絶しそうだ
二人は意味が分からないという風に顔を見合わせている
狂った人間だと思われただろうか?
それでもいい。今は笑いが止まらなかった



が死んでからこんな数日で、自分が笑えるなんて思ってもみなかった
だって想像してみろ
自分の一番大切な人間が死んで
短時間で心の底から笑えるか?
普通は絶対無理だ



だから、こうして二度会えたオレは幸せなんだと
そう思うと笑いながら泣いてしまいそうだった



絶対に、絶対にコイツを消させたりなんかしない
あと5日間、オレは全力でコイツの心残りを見つける
オレに笑顔を取り戻してくれたに
それがせめてもの恩返し



好きだから
ずっと好きだから
消させなんかしない
絶対に
絶対に



そう決心しながら、オレらはまたくだらない話を始めた
ここにはちゃんと4人いる
オレだけには、前のような日常が戻ってきたように見えていた
錯覚に、すぎないが















あたしは皆には見えていないけど

今確かに皆と笑えていた

だけど

こんなに楽しいはずなのに

こんなにもあたしは孤独だ

寂寞の想いの中

繋がりを求めてあたしは笑う

どこか遠くで見ている自分があたしをみて

壊れた人形のようだとまた笑った




3day