どこが好きかなんてわからないけど
でもまぁはっきりと言えるのは…
「フラれろばーか」
「……あぁ?何でテメェが知ってんだクソ女」
「いたたたたた、な、何で!?
何で頬っぺたとかじゃなくて耳たぶ引っ張るの!?耳が!耳がとれる!」
「とれちまえこんなもん」
「最低だこの人!!」
「その最低な人間が好きなやつはどこのどいつだ?」
「そこらの女子とあたしです!!」
そう言ってヤマケンと無理矢理距離をとった私は、自分の両耳に手をやった。
ひりひりとした痛みと、異様な熱を持った耳は私の想像が正しければ真っ赤になっているはずだ。
この赤さは恥ずかしさとかからくるものではなく、痛さからくるものなので、あしからず。
つかヤマケンめ、本気でひっぱってきたよこの人…。
「熱い」
「お前の自業自得だろ」
「お前じゃないですー。幼馴染みのですー。
ヤマケンくんはあたしの名前も忘れちゃったんでちゅかー?可哀想な脳ミソでちゅねー」
「死ね」
「あぎゃうっ!!頭掴むのやめて!!なんか絶対ミシッていった!!頭が!!」
手をバタバタしながら言えば、馬鹿にしたように鼻で笑われた上に見下された。
かっわいくねぇ!!!
私はヤマケンの事が好きなのだけど!可愛くないものは可愛くないのだ。
ヤマケンの全部が好き!と言えるほど恋に対して盲目になれない。
ちなみに私がヤマケンの事を好きだと言う事実は、周りも、本人ですら承知のことだ。
ベタな幼馴染みといえば「大きくなったらケッコンしようね!」などと約束をするものである。
まぁ私たちにもそんな時期はあった。
あったのだが、可愛らしく「大きくなったらヤマケンのお嫁さんになる!」と言った私に対し
「お前バカだからむり」と返したヤマケンの無情さったらない。
嫌だ、とかではなく無理ときたものだ。
まぁその3秒後には、怒った私がヤマケンの頭にゾウさんジョウロを投げつけてびしょ濡れにさせてしまうのだが。
ちなみに中に入ってたのが泥水だったからヤマケンの怒りは2割増だった。
「つか何で知ってんだって聞いてんだよ」
無駄にだだっ広いヤマケンの部屋で、勉強机の椅子に座りながらヤマケンがこっちを見る。
見る、ってか睨んでるよあれ。
私は壁際のベッドに座り込むと、相手との盾を作るようにぎゅっと枕を抱き締めた。
本当は何も言わないつもりだったのだけれどヤマケンが睨み続けているので仕方なく口を開いた。
「……見てりゃわかるってば」
何年間の片想いだと思ってるんだと笑ながら言えば、少しバツの悪そうな顔をされた。
おや、これは珍しい。
私がこの程度で感傷的になると思っているのだろうか。
というか少しでも悪いと思っているのならその女グセの悪さから直せ。
過去のさんはそりゃもう傷ついたぞ。
過去に一度そんなヤマケンにイライラして「いい加減に愛想つかすぞ!!!」と怒鳴りつけたら
いつものように見下した態度で「ハッ!まだ好きだったのかよ」とか言われた。
その時は本気で奴の頬っぺたを殴った。勿論グーで。
今と同じように椅子に座っていたヤマケンは椅子ごと倒れて、私は当然死を覚悟した。
うわーやべー殴っちゃったどうしよう殺される。
そう思いながら強気な態度でヤマケンを見下していると、意外にも怒ることはしなかった。
ただ呆然と私を見上げた後、腫れ始めた頬を気にしながら視線をそらし、ただ一言
小さな声で「悪かった」と言った。
その瞬間私が泣きだしたものだから珍しくまたヤマケンが慌てて、袖でぐいぐい涙を拭いてくれた。
今思えばそれが私が初めてヤマケンの前で泣いた瞬間だったかもしれない。
というか、ヤマケンの前で泣いたのは後にも先にもそれだけだ。
今じゃいい思い出だけど。と、昔をぼーっと思いだす。
「こりねぇやつ」
「そんな懲りないやつを部屋にいれるヤマケンは相当なお人よ……バカだよね」
「そこはお人好しのままで通せよ。誰が馬鹿だって?」
「ヤマケン」
「よし、頭割ってやる」
「愛情表現がアグレッシブすぎないかいヤマケンくんよ」
「お前にかけてやる愛情はヒトツマミもねぇな」
そういってこっちに近づくと頭に手をかざしてくる。
その行動に先程の痛みを思い出した私は、咄嗟にヤマケンの手首をつかむと必死に押し返す。
もう片方の手も同じ。
「手はなせ」
「離したらあたしの脳ミソの危機なのでちょっと……」
「あ?大した頭じゃねぇだろうが」
「わおー。どこまで人をバカにすれば気が済むんだコイツ!」
つかさっきからギリギリと押されている。
やっぱこんな薄い体…失礼。細い体してても男子なのか力はあるみたいだ。
喧嘩弱いくせにな!!
ヤマケンが余裕っぽいのがムカついて頑張って手に力を込めてみたけど
なんかもう腕が限界のようでプルプルしてきた。
そろそろやめて欲しいという旨を伝えようとしたのだが、どうやら私の体力が限界を迎えるのが早かったようで。
「う、わっ!?」
「ばっ!おまっ!?」
後ろ向きに倒れた。
壁際にあるベッドなので後ろに倒れれば当然あるのは壁。
私は来るべき衝撃に備えてぎゅっと強く目を瞑った。
ゴツッという鈍い音が自分の耳に届いた。
けれど思っていたよりも痛くなくて、それどころかなんか壁が柔らかい気さえする。
何事だと恐る恐る目を開けると……ドアップでヤマケンの顔が目の前に。
しかも右手を壁についていて、正直なんておいしい状態だと思いました。
軽く抱きしめられるような形なので呆然としていたら、ヤマケンがキレた。
「いきなり倒れんな!!!!心臓にわりぃだろ!!!」
「え、あ、サーセン……」
「……サーセン?」
「すみませんでした山口様」
ため息をついて呆れるヤマケンには悪いが私はまだ頭の整理がついてなくて。
ただ徐々に現状を把握してきつつあるのは確かで。
えっと、これは、壁と私の頭の間にヤマケンの手があって…それはつまり、ええと。
「助けて、くれ、た…?」
「……頭うった時に痛いってわめかれてもうるさいし、こぶできた時の治療も面倒だしな」
そう言ってパッとベッドのふちに座り直したヤマケンを追って、私も隣に座る。
けど、なんか、顔が見れない。
いやだって嫌味言ってくるんじゃなく私の心配なんてしてくれるヤマケンなんて珍しいから。
なんか……なんか……。
「クソッ、調子狂う」
「え?」
私が思っていることを口に出したヤマケンに驚いて、思わず顔をあげてしまった。
するとそんな私を横目で見たヤマケンは、私の頭に手を置くと乱暴にかきまわした。
「え、ちょ、ヤ、ヤマケン!!頭が!!視界が!!まわるまわる!!」
「んな、真っ赤な顔してんな!!調子狂うだろうが!」
これまた乱暴に私の頭から手を離したヤマケンは、ブツクサ文句を言いながら椅子に向かっていく。
ちょっと見えた顔が赤かったのは、きっと見間違いじゃないはずだ。
私は乱れた髪を直しながら必死に言葉を探してその背中にかける。
「ヤマケン、好きだ!!」
「礼を言え、まずは」
「ヤマケン、ありがとう!!好きだ!!お嫁さんにしてください!!」
「お前馬鹿だから無理」
でも何だかんだ言いながら結局心配とかしてくれるんだもんな。
そう思うと自然と頬が緩んで、顔が熱くなった。
だから大好きなんだよ、ヤマケン。
やっぱキミじゃなきゃ!
(だからお前じゃなくて……)(。うるさい)(!?)