いつかこんな日がくるなんて 想像もしていなかったわけですよ
「おま、どこに居んだ今!!」 『駅前に新しくできたサーティワン』 抹茶うめー。と呑気な声が携帯電話から聞こえてきて思わず携帯を持つ手に力が入る。 気のせいか携帯がミシリッていったぞおい。 口の端をひくつかせながら、リビングに設置してあるテレビに目を向ける。 そこには何やら評論家がそろっていて、上の方に「人類滅亡か!?」という文字が見える。 キャスターや評論家は現状についての討論に余念がない。 そう。何だか人類が滅亡するらしいのだ。 俺が朝、寝ぼけ眼でテレビをつけるとそんなニュースをしていた。 最初は何かのドッキリか、はたまた夢かと思っていた。 けれど真剣なキャスターの表情や、背後で慌ただしく動く人たちを見ていくにつれてそれは現実味を帯びてきた。 あれ。ちょっとマジでやばいんじゃね?と思っていたら、地球に衝突しようとしているとか なんかよくわからない隕石の映像が映し出されて「あ、死ぬ」と思った。実際に口に出たかもしれない。 その瞬間思い浮かんだのは俺のどこまでもマイペースな彼女の事で。 家が比較的近かった俺は走って彼女の家まで行った。 そうしたらこれまたマイペースな彼女の母上様が出てきて「あの子さっき出かけたのよ。困った子ねー」 なんて言うから俺はもう乾いた笑いしか出なかった。 ああ本当に困った子ですよちくしょー。 で、とりあえず家に戻りながら電話をかけたらあの言葉だ。 え。何でお前アイスなんか食ってんの。彼氏はいいのか彼氏は。 『いやー。最後の日くらいセールやってるかと思ったけどやってなかったわー。残念残念』 つかよく店が開いてたな。という言葉をギリギリのところで飲み込む。 それじゃぁ話がそれて、結局何一つ実りのある話ができないということはよく分かっていたからだ。 「な、なんでアイス食ってんの…?」 『昨日CM見てからずっと食べたくてさ。夢にも出てきて、まいっちゃうよね』 「お前の行動にこっちがまいっちゃうわ!!おま、今日で世界が終わるかもなんだぞ!」 『あはは、うけるー』 「うけねぇ!!」 つかマジで何でこいつこんな簡単に外に出ようと思ったんだ。 このニュースで世間は混乱してるだろうし、ちょっと頭のおかしいやつが出てきたっておかしくないだろうに。 万が一の事があったらどうすんだ…! 頭が痛くなってこめかみ辺りを押さえていると『紫色のアイスってどうやって色つけてんだろうね』って 言葉が電話から聞こえてきた。知るか!!!!心の底から知るか!! 「…混乱しちゃって変な人とかが出てくると思うから、話しかけられる前に帰ってきなさい」 『あ、さっき知らないおじさんに声かけられたよ。なんかはぁはぁしてた』 「お願いします本当に早く帰ってきてくださいいやマジで」 『お、ひょっとしてあたし今“アイスなう”ってやつ?』 「俺はの“帰宅なう”って言葉がききてぇなーこのやろー」 話聞けよ。 再びテレビに目をやれば小規模だけど暴動がどうとかって中継がされていた。 ああもう。頭に続いて胃が痛い…。 すると「準太ー」と俺の名前を呼ぶ声が電話から聞こえてきた。 何かを言おうとする彼女の横から『ねぇキミさー、俺らと…』『サーセン。自分彼氏いるんで。リア充なんで』 って会話が聞こえてきてああああああああああああああ胃が痛い!!!! 『あのね準太。仮に世界が今日で終わるとしても、あたしらが焦ってもなーんも解決しないよ』 「ちょっと待て。それよりさっきの男誰…」 『隕石ってでっかいんだよー。どんくらいでっかいかっていうとね…まぁめっちゃでっかい』 「いやだから、さっきの男…」 『そんなでっかい隕石にあたしら立ち向かえないでしょ。絶対ゴジラよりでかいもん。  ゴジラにも勝てないのに隕石とか無理無理。だからさ、こういうのはお偉いさん方に任せましょ。  無駄に焦って何にもせずに死ぬよりはね、したいことして最後の瞬間を迎えようよ』 『ちなみにあたしが今したいのは準太とアイスを食べることー』なんて楽しそうな声が聞こえてくる。 最高にマイペースな俺の彼女は世界が終る瞬間までマイペースらしい。 だから何でアイスなんだ、とか、じゃぁ俺を誘ってから食いに行けよとか言いたいことは山ほどある。 でもここであーだこーだ言ってて結局の顔を見ずに死ぬなんてまっぴらごめんだ。 何よりさっきの男の事を問いたださなくてはいけないし、そんなやつらからを守らなければならない。 俺は頭を掻き毟ると、わざとドスドスと足音を立てて玄関に向かった。 結局どうやったって俺はを放ってはおけないのだ。 「絶対にそこを動くなよ!!」 玄関を出るころには、お前と食べたいアイスなんて決まってた。 世界は案外簡単におわる (早くおいでー)(あーもう!!すぐ行く!!)