あたたかい風がカーテンを押して室内に入ってきた
もう春なんだなと感じずにはいられない





あたしは一人、新しい部屋で荷物の整理をしていた
今日、引越しをしたのだ
見知った土地を離れて、大学に行くために知らない土地に・・・
皆とは離れてしまったけど、幸いにも友達が近くに住んでいるらしく
この荷物の整理が終わったら遊びに行こうと考えていた





といっても、わたしよりむこうの荷物の方が多いから
遊びに行ったところで結局は手伝わされる羽目になるんだろうけど
・・・・・・・だったらもう少しゆっくりしようかな、と思う
さすがに自分のが終わってすぐに他人の分もというのはキツイ
普段運動しないので、あたしの筋肉はすぐに悲鳴を上げる





それでも、そんな筋肉を頑張って使い、今は大体の荷物の整理が終わった
ここまで頑張った自分を褒めてやりたい
あたしはいったん休憩することを決め、ベッドの上にダイブした
真新しいシーツの匂いがなんともいえない





「疲れた・・・なぁ・・・」





そんな独り言を呟いたって、返事は返ってこず・・・
当たり前か・・・誰もいないんだから
何だかもう既に一人暮らしが嫌になってしまったかもしれない
こんなに寂しいものなのかと思うけど、慣れない内は仕方が無いだろう





携帯を開くといくつかメールが入っていて、軽くチェックすると
すぐに閉じて近くに放り投げた
返信は・・・もう少し後でしよう





「うーん、寂しいなぁ、やっぱ・・・」





ごろんと寝返りをうちながら小さな声で呟いた
目を閉じて、自分の考えにふける
やっぱり寂しい・・・なんであたし、今からこんなに寂しがってるんだろう
ちょっと早すぎじゃないのか
あたしは軽く、自分の頭を叩いた





高校生活は、野球部の人間とよく話をした
野球部は皆仲がよくて、いつも元気だったなぁ
なんであたしが野球部と話をするようになったかなんて忘れたけど・・・
そもそも普段がにぎやか過ぎたんだ
あのにぎやかさが無いと思うと、そりゃぁ誰だって寂しくもなる





あたしは手探りで携帯を探すと、フォルダを開く
卒業式の日、皆でとった写真を見た
そんなに日はたってないはずなのに妙に懐かしく感じる
皆笑顔で、キラキラしていて、胸がぎゅっとなった
これをとってよかったと思う





でも同時に、とらなければよかったとも思った
その原因は、あたしの右隣で笑っている後輩にある
こんなものを見たら嫌でも思い出してしまう





「準太ぁ・・・」





結局・・・告白もできなかったな





いつも練習を頑張る準太がすきだった
やわらかい表情で笑う準太がすきだった
優しい準太がすきだった
でも、何かが変わるのが怖かったあたしは、結局何もしていない
ただただ、好きだっただけ





誰かがこんなあたしを見たら笑うんだろうか
それでもいい・・・笑われてもいい・・・
あたしは
そばにいられるだけで
話せるだけで
会えるだけで・・・よかったんだ
それ以上は、本当に・・・あまり考えたことは無かった





いや、無意識のうちに考えないようにしていただけかもしれない
だってその方が楽だから
考えなければ、苦しくも辛くも無い
あたしは、いつも逃げてばかりだ





今、この瞬間だってそう
荷物の整理なんてゆっくりできたはずだ
忙しく動き回っていたのは、準太のことを考えないため
ずーっと・・・そうしてこれからも
あたしは逃げ続けるんだろう





でも、逃げれば逃げるほど
顔が、声が、仕草がハッキリと頭の中に思い浮かぶんだから
本当にあたしという生き物は嫌になる





(消えろ消えろ消えろ)





頭の中に浮かんだ準太の姿を必死に消そうとして頭を振った
けど、あたしが思い浮かべた準太はそう簡単には消えてくれない
勘弁してくれ
まだ荷物の整理は残ってるのに・・・





その時、携帯がなった
着信音からすると、メールだろう・・・
あたしは、また手探りで携帯を探すとゆっくりとした動作で開いた





なんてタイミングの悪い





それでいてなんてタイミングのいいやつなんだろう





送信者の名前は「準太」
今の今まで考えていた人の名前だ





『今日引越しでしたよね?
 新しい街はどうッスか?
 先輩のことだから、すぐに慣れるとは思うんスけど・・・
 
 寂しいからって泣かないでくださいね(笑)
 また遊びに行くんで!もちろん、皆も一緒に
 そん時は、絶対街を案内してくださいよ!!』





ばっかじゃないの





画面に、水滴が落ちた
あぁ、自分は・・・泣いているんだな・・・
そう自覚するのに、多少時間がかかった
どこから出るんだと不思議に思うぐらい、涙はあふれてきて
とまることを知らずに流れ続ける





ばっかじゃないの





姿を見れるだけで
声を聞けるだけで
会えるだけでよかった
それだけで満足だった、十分だった
あなたに会えた日は嬉しくて、話せた日は幸せだった





ねぇ、難しいこと、いってないよね
すっごくすっごく単純なことだよね
だけどこれから先、下手したら一生
この願いがかなうことは無いんだよ





諦めなきゃいけないのに
そう思えば思うほど、あんたが出てくるんだよ
どうしてくれるんだ、この気持ち
あたし、おかしくなっちゃいそうだよ





「ホンッ、トに・・・人の気も知らないで・・・っぅ」





あたしは声を上げずに涙を流し続けた
この涙のとめ方を、あたしは知らない





窓からもう一度、あたたかい風が入ってきて
あたしの頬をやさしく撫でた






Good bye... 


(そう呟いたって、この気持ちは消えやしない)