「あっははははは!!慎吾!!何その顔!!あははははは!!」
「あー、なんていうか、キレイな紅葉だな」
「ひっでーよ・・・ヤマちゃんも和己も・・・」
不貞腐れたように顔をそらすオレの左頬はうっすら赤くなっている。
和己が言うような紅葉型に・・・。
ああ、そうだ。さっきトイレの鏡でふとみてこれはねぇと思ったさ。
でも試しに水で冷やしてみても一向にひかないこの赤みは相当の頑固者だ。
「で?それ誰につけられたって?」
「・・・・・・」
ぼそりと自分の彼女の名前をつぶやけばいっそうでかくなるのはヤマちゃんの笑い声。
和己の肩だって揺れていて、自分の味方はここにいないんだとわかりうんざりする。
何となく左頬に手を当ててみた。
熱い・・・。
「慎吾、なんでそんな顔に・・・ククッ」
「和己、笑うか質問するかどっちかにしろ」
「オレは笑うよー!あははははは!!」
「お前は笑うな!!!!」
苦しそうにしているヤマちゃんを眼尻に先ほどのことを考えた。
思い出せば左頬がまた熱をもった気がしてため息をつく。
それはのクラスに遊びに行っていた時のことだ。
「ねぇ、なら島崎と自分のどちらかが死なないといけないってなったらどうする?」
唐突なその質問はの友達からだった。
何を思ったか知らないが、聞いた本人は楽しそうに表情を緩めている。
だがオレ自身もの返事が気になったのでどうなんだという風にじっと顔を見みてみた。
すると彼女はなんてことはないという様にさらりと答えた。
「慎吾に死んでもらう」
神様・・・・・・。
「あのなー、お前・・・ここは嘘でも自分が死ぬとか言えよ」
「えー、だって・・・・・・」
きょとんとした顔で弁当のハンバーグを口に入れたは、小首をかしげる。
そうして次の瞬間、形のいい唇が弧を描く。
「だって慎吾、あたしが死んだら悲しむでしょ?
慎吾が悲しむ姿をあの世から眺めてるなんて辛いじゃない。
生きられないのはかわいそうだし死ぬほど寂しいけど・・・・・
その感情を慎吾に味わってもらいたくはない。
だからあたしが代わりに悲しみを背負って慎吾の分も生きてあげる」
「だから安心して死んでね」という彼女の言葉は物騒だが、嬉しかった。
そんなのは俺だって同じだとは思いつつも、やはり俺のことを考え
そういう答えが聞けるというのは幸せじゃないか。
綺麗に笑ったに、俺は自分の顔がわずかながら赤くなっているのを自覚していた。
「幸せそーだな」
「で、その流れでどーして頬っぺたに手形つけられんのさ?」
その問いに先ほどよりも重い溜息をつくと、机に視線を落とした。
「同じ質問を、俺にもされた・・・」
「なんて答えたんだ?」
「“その時になってみないとわからない”って。
だってそうだろ?想像するのなんか簡単だけど、実際どうなんのかわかんねぇし」
「うわー、そりゃあんな言葉くれた後にその返答じゃ・・・・・ねぇ」
「せっかくいいこと言ってくれたんだから、もっと考えて・・・」
「いや、そうじゃねぇよ」
「「は?」」
確かには怒っていた。
が、理由はそこじゃないのだ。
俺の発言に怒っていたのは事実だが・・・あいつが俺の答えを聞いて叫んだ言葉は・・・
「“ハッキリしないことを言わないの!!”」
瞬時にヤバイと思い言い訳をしようと口を開いたのがもっといけなかった。
「あー、いや、今のは・・・」と言えば冷や汗をかく自分。
次に何があるかなんて予想ができた、が、避けれなかった。
「そんで、こう、パーンと・・・」
「ああ・・・なるほど・・・」
納得されるのもどうかと思うがこれは俺の友達なら知っていることだった。
俺の彼女は可愛いのだがハッキリしないことを好まない。
彼女いわく曖昧な答えはどうもイライラするのだとか。
の性格自体がさっぱりしているので妙に納得してしまうのだが・・・。
「まさかここまで怒られるとは・・・何であんなに怒られたんだか。
いつもはちょっと機嫌が悪くなる程度なんだけどな」
「そりゃぁ慎吾にどっちか選んでほしかったんだよ」
「えぇ?」
「だってどっちを選んだって愛されてるなーって感じるでしょうに。
ちゃんの話を聞いた後だったら特にさ」
そうだったのか、と首をかしげていると、ふとあの時のの表情を思い出す。
そういえばあの時のの顔は怒っているというよりはむしろ・・・
(拗ねてるような・・・?)
ガタンと勢いよく席を立てば驚いている和己と予想通りという顔で笑っているヤマちゃん。
だが二人にかまっていられないとばかりに俺は教室を飛び出す。
「俺、に謝ってくるわ!!」
という一言を残して。
ああ、今更遅いだろうか。
だけどちゃんと謝ろう。そうしてしっかりと答えを選ぼう。
拗ねた顔が笑顔になってくれるように願いつつ、のクラスに入ると叫んだ。
「っ!!!!」
ならば君とは逆の答えを!!
(なんだかんだ言いながら、慎吾って結構尻に敷かれてるよねー)(そうだなぁ)
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