「あー、雨降ってきちゃったよ」
そう言ったクラスメイトの言葉がやけに大きく聞こえて
自然と視線が窓に向かう
窓の外はあいかわらずの曇りで、変わったといえば、
雲の色が朝よりも濃くなったことだろうか
灰色の雲が空を隙間なくうめつくしていて
昨日見た青空はちらりとも見えやしない
でてこい青空
わたしはこんな重苦しい空よりも君のほうが好きだよ
・・・・・・なんて思ったところでどうにもならないんだけど
でもわたしは、この空を見ただけで気持ちが沈んでしまうから
そう思わずにはいられないんだ
そんなわたしの気持ちを沈める鉛色の空からは
クラスメイトの言うとおり、雨がふってきていた
おまけに風も出てきたらしく、草木がいつも以上に揺れている
・・・これは、これからもっと酷くなりそうだなぁ
まいった
わたし今日委員会があるのに・・・
せめて酷くなるなら、私が家の中に入ってからにしてください
そうしたらどんなに雨がふっても、風がふいてもいいから!
けどそんなわたしの願いもむなしく・・・
雨風はどんどん強くなっていって、委員会の最中は外に出たら
傘がコンマ単位で壊れるだろうというぐらいまで酷くなった
それは委員会が終わった今も同じで、酷くなることもなく
マシになるわけでもなく・・・
というか、これが最大級に酷い状態だから
これ以上酷くなりようがないとかそんな感じなんだろうか
だったら泣きたい
だってわたしは、傘が壊れるとか以前に傘を持ってきてないのだ
こんな雨風絶好調の中帰れるわけがない
まぁ、傘があってもそんなに意味のない気もするけど・・・
でもないよりはマシだ・・・と思う
とにかくそんなわけで、家に帰ることのできないわたしは
皆が帰った教室の中で一人寂しくさっきの委員会の
資料や意見なんかを整理しています
ろんりー・・・
凄く心細いよ、この状況
せめてあと一人・・・誰かいてくれたらなー・・・
でもこんな中、学校に残ってる生徒なんかわたしぐらいじゃ・・・
「おっ、だったのか」
・・・・・・いた
「島崎くん・・・」
「お前まだいたのかよ、帰らねぇの?」
「あははっ・・・傘忘れちゃって
少しマシになるまで待ってみよーかなーみたいな」
「・・・・マシになんのかわかんねぇけどな」
そういうと島崎くんは教室のドアを閉めてこっちにきた
よく見ると島崎くんの短い髪の毛はぬれていて、少し寒そうだ
でもあいにくわたしはタオルなんて持ってなかったから
ただその髪についた水滴を見ることしかできなかったんだけど
重そうなカバンを落とすように床に置くと
いきなりこっちを覗き込んでくる
「何だそれ、委員会・・・?」
「そう!ただ待つのも暇だったから整理でもしとこうかなって
ていうか、島崎くんぬれてるけど大丈夫?寒くない?」
「あぁ、これか?大丈夫だって
オレさっきまで部活だったんだよ」
「えぇ!?こんな中!?」
「こんな中
でもさすがにヤベェから中止になったんだけどな」
ならない方がおかしいと思う・・・
というか風でボールとか飛んでいかないのかな?
いや、飛ぶよね、確実に
風すごいし
だって普通に看板とか飛んでそうだもん
「んで帰ろうと思ったら教室の電気がついてたから
気になって寄ったんだよ」
「へぇ・・・
ということは、わたしが帰るの邪魔しちゃったとか?」
「そーかもな」
「なっ!?」
「ククッ・・・うそだっつーの
本気にするなよ、おもしれーなー」
おもしろくない!!わたしは全く面白くないよ島崎くん!!
「島崎くん帰らないの?」
「ん?いや、オレもマシになるまで待っとこうと思ったんだけど
は帰ってほしいのかよ?」
「いや!そんなことないよ!!
というか実を言うと一人は心細かったんだ!
いてくれたら凄く助かる!」
そういった時だった
いきなり窓の外がすごく光って、それからすぐに太鼓の音みたいに
大きな音が鳴り響いた
とうとう雷までなりはじめたらしい
・・・・・・本当帰れないんじゃないんだろうか
なんて思いながら、わたしは委員会の資料を整理していた手を止める
実はわたし雷が苦手なのだ
あの音が聞こえるたびに、心臓がうるさくなって体が少し震えてしまう
そんな泣きたいぐらい怖いって分けでもないんだけど・・・
それでも、この大きな音はわたしをどうしようもなく不安にさせる
やだ・・・どうしよう・・・手が震える・・・・・・
こんな情けないところなんか、島崎くんにみせたくないのに・・・
「?」
島崎くんに呼ばれてハッと下げていた顔を上げる
目の前には怪訝そうな顔をした島崎くんがいた
と、とりあえず、いつも通りにしとこう!
そうすればばれないよ!!
「あっ、いや、なんでもない!なんでもないよ!
あっはは・・・早く資料の整理終わらせなきゃなー」
「」
「え?何?」
「無理すんなよ」
「へ?なんの・・・」
なんのこと?
そういい終わる前に、耳につけられたイヤフォン
どうやらそれは島崎くんのものらしく、わたしにはよく分からない
洋楽がすぐに耳いっぱいに広がって外の音が聞こえなくなった
そして、それと同時に視界が真っ暗になる
わたしが、島崎くんに、抱きしめられているのだ
最初は、この状況の意味が分からなかったけど
しばらくすると、島崎くんが雷から守ってくれてるんだって分かった
音が聞こえないように音楽を流して・・・
光が見えないように抱きしめて・・・
「しばらくこうしてろ、大丈夫だから」
かすかに聞こえたその言葉にひどく安心する
さっきまで震えていた体は、今は全く震えてない
かわりに心臓は、さっき以上にうるさくなった
ある意味、大丈夫じゃないかもです・・・
すっごくすっごく恥ずかしくて、わたしの顔に熱が集中する
いま、一瞬、もっと雷がなっていれば良いのになんて考えた
そうすればわたしはまた怖くなって震えてしまうんだろうね
だけど、また島崎くんがこうして守ってくれるかもなんて思ったら
震えぐらいなんじゃー!なんて思えたんだ
ありがとう
それから小声で好きですなんてプチ告白
その返事は、音楽にかき消されて聞こえなかったけれど
きみが震えるのなら
(お前の泣きそうな顔なんかみたくないから)
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