まるで合唱のように外から絶え間なく聞こえる音
といってもその音は心地よさとは無縁の世界で、
全てを焼く尽くすような日差しの下では
人をイライラさせる一つの要素となっていた






でもそんな彼らも生きるのに必死なんだなと思うと
なぜだか無性に泣けてきた






人々は彼らを嫌うけど、それでも歌い続けるなんて
とても素晴らしいことじゃないか
なんならわたしは彼らに拍手を送ったっていい
・・・って、何様だって感じですが






まるでその色しか知らないような青空と


このままだと海の水が全て蒸発してしまうんじゃ
なんて思わせる太陽の日差しと


彼らの素敵にもはかない歌声






全てがフルにわたしの視覚、聴覚、触覚を刺激したので
わたしはその場で少しだけ震え上がった






「なーに震えてんだよ
 今日普通にあつくね?」

「島崎・・・」






何かで頭をパコッと叩かれて振り向くとそこには
タオルを左手に、右手に資料をもってる島崎がいた
島崎は暑いらしく、タオルでとまりそうも無い汗をふいている
よく見るとタオルは二枚あって
お前そんな汗ふくのかよ、脱水症状おこすぞなんて考えた






「島崎ー・・・」

「んー?」

「わたし、セミになりたい」

「・・・・・・・それは、どういう意味で?」

「・・・・・・・・」

「たっく・・・失恋なんか人生で何度もあんだろ」






そう、わたしはちょっと前、クラスの男子に告白して
見事にふられてしまったのだ
さっきたくさん泣いたから、もう涙は出ない
でも悲しいものは悲しいのに・・・
堂々と“失恋”と口にするこいつはやっぱりどこか憎らしい






島崎は慰めのつもりでいったんだろうか
いや、多分わたしがバカな事言ったか呆れてんだ
わたしが彼らになりたいって言ったのは
必死に生きたいからじゃない






今なら、一週間の命も悪くないと思えた
なんて・・・・・・こんなのわたしらしくない
ネガティブすぎた、けどその暗い考えはなかなか消えてくれない






失恋ってこんな辛いものだったっけ?と考えて
そういえば最近恋してなかったなと気づいた






「一週間か・・・・・・どんな気持ちなんだろ
 数年たってやっと大人になったのに、
 たった一週間しか生きられないって・・・」

「さぁ?俺セミじゃねぇから
 でもま・・・短いとか長いとか、考えねぇだろ」

「え?」

「短いや長いって考えるんじゃなくって
 残った時間一生懸命生きるんじゃね?
 生きれる時間じゃなくて、生きる時間が大切なん・・・
 ・・・・・・・・・・だったらいいな」






願望ですか






「まぁ、そう考えるのも良いね」

「だろ?」

「うん」

「ついでに言うと、お前は失恋ぐらい耐えれるだろ
 お前の寿命後どのくらいかなんかしらねぇけど
 まだ結構あるんじゃねぇの?」

「うん、だったらいいね」

「生きる時間長いと、そんだけ辛いことも多いだろ
 でも時間が長いってことは、我慢できる
 乗り越えられるってことだ・・・って思っといたほうが
 なーんか楽だろ?」

「・・・・・・例えのスケールが大きいよバカ
 それになんか台詞くさいし、意味わかんない」

「うっせぇ!つかもぉ、お前はこれでもかぶっとけ!」

「ぶっ!?」






いきなり顔面に降ってきたのはタオル
そのタオルからは汗のにおいなんかしなくって
代わりに洗剤のいい匂いがした
今更になって、二枚あったうちの一枚は
わたし用だったんだなって気づく






そうして「頑張ったな」って声が聞こえて
続けて頭を軽く撫でられる






島崎の足音が遠ざかっていった






知ってるよ
君が優しいってことぐらい


一生懸命励まそうとしてくれたんだよね
(でも不器用だから説明意味わかんないよ)


わざわざ来てくれたんだよね
(わかってるさ、そんなことぐらい)


そんでもって、このタオルも・・・・
(わたしがまたこうなるって分かってたんだね)











もぉ全部流れちゃったと思ってたのに・・・






目からあふれ出た一筋の涙は
わたし以外の誰にも気づかれること無く
静かにタオルの中へと消えていった










嗚呼、儚きかな、蝉の命    


(だからわたしが、明日も笑ってやろうじゃない!)