もうすぐ梅雨が明けるはずなのに最近は雨続きだった
(俺はもう梅雨が明けないんじゃないかと思ったほどだ)
毎日毎日雨 雨 雨・・・
おかげで学校に来るだけで濡れるし体力は使うし
部活はずっと中練だから本当に、たまったもんじゃない
それでも今、俺が傘をささずに歩いてられるのは
今日が珍しく晴れだから
昨日雨だったなんて信じられないほどのこの暑さ
カラッとすんのはいいけど限度をわきまえて欲しいと思う
水溜りなんか俺らが起きるまでに消えてなくなった
(しっかりしろよ水溜り)
教師達はまるでこうなることが分かっていたみたいに
今日に水泳の授業を詰め込んでいたからスゲェと思う
(天気予報ですら今日はいつもと同じように雨だったんだ)
俺達の学年もそのスケジュールからもれることなく
女子は水泳の授業が入り込んでいたわけだけど・・・
「で?お前は何バカしたんだよ?」
プールサイドに座って足をつけて
水の中をじっと見ていた背中に問いかけた
俺は本当はこの答えを知ってたんだけど、なんとなく・・・
ただなんとなくコイツの口から聞きたくなっていた
「別に。皆が勝手にカンチガイして勝手に騒いだだけだよ」
そういうと背中が少し丸くなって水面と顔の距離が縮まった
あーこりゃ怒ってるな
声にとげがあるからすぐに分かる、つーかわかんねぇ方がおかしいか
とりあえず俺はそいつの隣に座って(でも足は水に入れないで)
目の前に缶コーヒーを出した
しばらく間があってから「ありがと」って小さな声でお礼を言うと
缶コーヒーを受け取って一口飲んだ
缶を開ける音が聞こえたことに安心した
コイツは、コーヒーを飲んだら落ち着くって言ってたような気がしたから
これで少しは落ち着いたのかなんて期待してみたりする
「それで?詳しく教えろよ、
大体は知ってるけど、細かいことなんかしらねぇんだからな」
これは本当な
いやマジで
「水泳の授業があったの」
「知ってる」
「ちょっとだけだよ?ちょっと沈んでただけ
プールの底から、寝転んで、空見てただけ・・・息がもつまで
そうしたら皆・・・あっ、先生もね
うん、皆がおぼれてるってカンチガイしたみたいでさ」
「おまっ、他のやつより肺活量あるんだから
ギリギリまで沈むの止めろよな
マジ溺れてるみてぇだぞ」
「仕方ないじゃん、水の中好きなんだもん
で、無理やり引き上げられてこっち意味わかんないのに
むこうがいきなり説教しだしてさ
いやぁ、本当、参ったものだね」
そう言って首をすくめるを横目で見つつ
俺がその場にいてもきっと勘違いすんだろうなって考える
だって、コイツの肺活量はマジでおかしいって
一回俺がビックリして「海女かよ」って言ったら
「だよ」って返されたような記憶がある
(別に名前が聞きたかったんじゃねぇよ)
しばらく黙って俺は空、は水面を眺めていた
雲が流れているのを見てやっと今風が吹いてることに気がついた
ということは水面も少なからず揺れてるんだろう
はぁ、たっく・・・コイツは一体何を見てんだか・・・
「あたし・・・さ・・・」
急に声がしたことに驚きもせず、俺はのほうを向いた
話し出したのはのくせに、相変わらずコイツは水面を見たままだ
そのことに少しムッとする
俺と話すときぐらいこっち見ろよな
水に話しかけてんじゃねぇんだからさ
「阿部、あたし水が好きなんだよ」
「なら水に告白しろ」
「違うよバカ。その好きじゃないってば」
知ってるっつーの
でも今の台詞聞いたら正直んん?ってなるだろ
「あたしよくさ、水の中に沈んでぼーっとしてんの
水の中は音が通らないとっても静かな世界で
普段ならそれが怖かったり、不安の元になるんだけどね
不思議とそれが無いんだよ」
静かに水面を見ているはいきなり片手で水をすくい上げた
その水はの手から溢れて
まるで仲間の元に戻るかのように、我先にとプールの中に戻っていく
あぁ、そうか
コイツは水面じゃなくって水自体を見てたのか・・・
「これだけの量じゃ水はあたしを包めない
だけどあたしが水の中に入ると水はあたしを包み込む
だから・・・なのかなぁ?
音の無い世界でも、安心できるんだ
他の人からするとそうでもないのかもだけど・・・
少なくともあたしにとっては安心できる世界・・・って;
おかしいかな・・・?」
「いいや、いいんじゃねぇ?
お前が安心できるんだろ?」
「・・・・・・・うん」
が少し嬉しそうに笑う
多分これを言ったのは、俺が初めてなんだろう
俺はなんとなく嬉しくなって顔が緩みそうになったけど
一人でニヤケんのもキモイから我慢した
そんで今度俺もやってみようかななんて思ってみる
「でもあれだな
お前ずっと水の中にいるとそのうちふやけるぜ?
たまには上がって来いよ、半漁人」
「なっ!?そんなに水の中にいるわけじゃないよ!
第一半漁人ってっっっ!!
せめて人魚姫と言って欲しいものだね」
「人魚姫?ハッ!似合わねぇー」
「うっ、うるさいな!!分かってるよ!!
例えだよ、例え!!」
顔を真っ赤にして怒るがおもしろくて
俺は少しの間笑っていた
人魚姫か・・・俺は人間のままの方がいいけどなぁ
しばらく笑ってるとが急に静かになった
ヤベッ・・・怒らせたか?なんて思いながらみると
また水をすくい上げていた
どーやら怒ってるわけじゃないらしい
その事にほっとしながら今度は水面を見る
「ここまで言っといてあれなんですが・・・
あたし水の中には住みたくないなぁ・・・と」
「はぁ?何で?」
「うーん・・・足りない・・・のかな?
凄く安心するけど、でもね
安心するんだけど・・・ただ」
「あぁ・・・」
言いにくそうにしているを見てなんとなく察しがついた
んで、だったら俺も嫌かもなんて思う
確かに安心する世界
自分を包んでくれるあたたかな世界
(けど・・・・・)(だけど・・・・・・)
そこに君の声はない
(そんな世界にはすみたくないんだ)
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